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□16.出逢い よん
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そろそろ切り出してもいいのだろうか。


いや、まだ早いかもしれない。
でも、俺の中じゃ、3ヶ月という時間があまりにも長く感じた。


あれからゼロスとは、清く正しい付き合いを続けている。

で、俺的にはもういいんじゃないかって思ってる。



…告白、しようって思ってる。




でも現実は厳しく、二人共時間が空いている日なんてなかなかない。


が、とうとうその日がやってきた。
ポケットの中に婚約指輪を突っ込んで、いつもの喫茶店へ。



「ロイド〜っ」
「あ、ゼロス。早かったな」
「うん。会えるって聞いて、仕事早めに切り上げたの」
「そんな、…いいのに」


彼女は今日、白を基調とした清楚な服だ。
相変わらず何を着ても似合うんだけど、収録現場から直接会いに来た時の露出の激しい服には正直鼻血がでるかと…。

いや、これ以上思い出すと顔がニヤけてしまうからやめとこう。
流石に彼女の前で鼻血はキツい。


「ね、大事なお話って何?」
「え、ああ。…あの」



膝の上で、汗ばみ始めた手のひらを握りこむ。
告白なんて、初めてだし…。

でも、絶対成功させてやる。



「あの、ゼロス」
「ん、何?」
「俺、ゼロスが好き。幸せにしたい」
「え…?」

「結婚、してください」



目を固く閉じ、ポケットの中で出番を待っていた子箱を差し出す。

が、反応がない。


恐る恐る目を開けると、涙を流しているゼロスが飛び込んできた。



「…う、あ…え…、」
「…ロイドのばか」
「え、あ、ごめん…」


「私、もう十分幸せだよ…?」

子箱を直そうとした手が、優しく包まれた。
彼女の華奢な両手から、仄かなぬくもりが伝ってくる。


「…でも」

彼女は淋しそうな表情を浮かべ、俯いた。


「…っ」
「ゼロス、いつまでかかるのだ」
「っ!?」

突然上から降ってきた声。
見上げると、大男が痺れを切らしたような顔つきで立っていた。


「…リーガル、さん…」
「ゼロス。約束だ」
「…はい…」


濡れた瞳が、ゆっくりとこちらを向いた。
闇に消え入りそうな程小さい彼女の声が、なのにはっきりと俺の中に入ってくる。

「…ごめんなさ…」
「…ゼロス?」
「…めんなさい、ごめ…な…っ…ぅ、…っ…」
「…はぁ。こうなる前に気づいてやるべきだった」


大男は、泣き伏せるゼロスの頭を撫でながら、何もできずに事の動きを見ていた俺に目を向ける。

「彼女から、引け」
「…え?」
「判らぬか。引けと言っている。…金なら払う、幾らだ?欲しい額を言ってみろ」


彼女を撫でる手が止まる。俺は男を睨んだ。


「…ねーよ」
「…」
「金なんていらねーよ。俺が欲しいのはゼロスだ」

ぴくりと、ゼロスの肩が震えた。
ぽろぽろと零れる涙を、彼女は一生懸命拭いていた。
時折、嗚咽が聞こえる。


「…どうだかな…」
「…何…?」
「彼女の地位や名誉の欲しさから、なのではないか?」
「んなモンいらねーよ」
「口先だけならなんとでも言える」
「んだと…!?」
「…イド」



ゼロスの声が、小さく響いた。


「楽…かった…っ、貴方に会…て、よか…た」
「ぜろ…っ」
「だい…すき…、だったの…っ、ほんと…だよ…?」
「…っ」



涙が、溢れた。
久しぶりのそれは、止まる事を知らない。
だから、流れ続ける。


「…だよぉ…、っ、ロイドと離れ…くない…」
「ゼロス、っゼロス…っ」

「…ゼロス。先に車に行きなさい」
「…や、嫌だ…っ」
「ゼロス」
「……はい」



彼女が去った後、男が向かいに座った。

「誰なんだよお前…っ」
「申し遅れてすまない。私はレザレノ芸能事務所のリーガル・ブライアンだ」
「…リー…、ガル…?リーガルってレザレノ芸能の社長…?」
「ああ」


すっと名刺を差し出され、礼を言って受け取る。
本物だった。

俺は、涙の軌跡をなんとか消そうと、何度も何度も目を擦った。


「…辛い思いをさせたな。すまなかった」
「…んで…、何で駄目なんだよ…?俺が、…一般人だからか?」
「それもある、が、それだけではない」


リーガルが、すっと立ち上がった。
胸ポケットから膨らんだ封筒をとさっとテーブルに置く。


「…今はこれぐらいしか持ち合わせがないのだ。まだ必要ならば、連絡してくれ」



俺は為す術が見つからず、去っていくその背中をただ茫然と見ていた。




→あとがき
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