.

□12.俺の理性が破壊される時
1ページ/3ページ




朝っぱらから俺は、はらはらしている。

危機的状況って訳ではなく…。
いや、ある意味危機なのかもしれない。

…俺の心臓と理性が。



「ね、ロイド」

熱を含んだ彼女の声に、俺はびびってしまう。


「おねがい」

あああやめてっ
可愛いけどっ
可愛いけどやめてっ


「も…、我慢…できないの…」



駄目っ
男は狼なんだよゼロスっ
そんな潤んだ瞳で一撃必殺食らわせなくていいからっ


ぎゅっと倒れ込むように抱き着かれ、早鐘のように鳴る心臓を必死で抑える。

「…くすり、買ってきて…?」
「病院行った方がいいって」
「いいよ、だいじょぶ、すぐ…治る、から」
「だってさぁ…」


絶対大丈夫じゃないよ、これ。
ゼロスもそうだけど、俺だって…理性がもたない。

「な、病院行こう?」
「や」


い、一文字で返すなよっ
何でこいつこんなに可愛いんだよ畜生…。


「…わ、判ったから、買ってくるから、…寝てろよ?」
「…うん。ありがと」


無理して笑うゼロスを襲いたくて、でも、我慢。

走るように家を出て、急いで薬局へ。
意外と近場で発見して、即座に買って、ついでに冷えぴた買って家に直行。


「今から飲む?」

ベッドの端に座り、そう聞きながらパッケージを見、はっとなる。
そこには、はっきりと『食後』と書いてあった。


「…ごめん、食後だって」
「…うん。ごめんね」
「何でゼロスが謝んだよ。ゆっくり休めよ」



そう言って立とうとした俺の服を、ゼロスが掴んだ。

「…行かないで」


どきっと胸が高鳴った。

「ろいど…、行かないで…」


熱のせいでほてっている頬と潤んだアイスブルーの瞳に吸い寄せられるように、俺はもう一度ベッドの端に座った。

「無理、すんなよ」
「…うん」


俺が軽く手を握ってやると、ゼロスは弱々しく笑った。


彼女の手は予想以上に熱く、熱を計らずとも絶対安静が必要な事が判る。




やがて繋がれた手の力が抜け、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

…寝たのだろうか。



もうすぐ昼だし、お粥でも作ってやるか。







出来上がったお粥を持ち、俺は再びゼロスの部屋に足を運んだ。
彼女はまだ寝ていた。


起こすのも気が引けるので、とりあえず机の上にお粥を置いた。



「…ゼロス…」


安らかではなさそうだ。
辛そうに眉をひそめている。

俺は彼女の手を握った。


先程よりは熱くない。



「…ん、…」

ゼロスが目を開けた。

「…ロイド」
「ごめん、起こした?」
「ううん、目が覚めただけ」



少し落ち着いてきたのか、ゼロスはさっきよりは自然な笑顔をつくる。

「あ、そうだ。ゼロス、お粥作ったんだ。食べる?」
「ほんと?ありがとう」


ゼロスの瞳が嬉しそうに輝いた。



可愛い…。



…あ、そうだ。


「はい、あーん」
「ぁ…」
「なぁに恥ずかしがってんの」

ゼロスは遠慮がちに口を開け、俺はお粥を流し込んでやる。

「美味しいね…」
「だろ?…って、ゼロス?」


彼女は泣いていた。



「ほんとに、美味しい…」
「…ゼロス?」
「ありがと、ロイド」
「あ、あぁ」


こんなんで、もつのだろうか。
俺の理性が。



全て食べ終わり、俺は薬に手を伸ばす。
あ、いい事思いついた。



「飲ませてあげようか」


俺がふと口にした言葉に、ゼロスはぴくりと反応した。

「口移しで飲ませてあげる」
「い、いいよ…」
「遠慮しないの」



箱を見ると、隅に『一回2錠』と書いてあった。

二つ一気に飲んでいいのかな。
いや、喉につまったら危険だよね…。


そんな葛藤が頭の中を巡り、やっとの思いで決意する。


よし、一錠ずつ。




俺は白い玉を口に放り込み、水を含む。


そのままゼロスの唇を塞いだ。


「…っん…」

彼女の頬を両手で優しく包み込み、口を開けるように促す。


ゼロスも観念したのか、ゆっくりと口を開けた。

その瞬間を見計らって、俺は己の舌を使って薬を一気に流し込んだ。


「ん…っふ…ぁ」



ゼロスが喉を鳴らした。

飲み込めたみたいだ。



「うへぇ、薬って意外にマズイな…」
「…風邪、移るよ」
「へーきへーき。はい、もう一個行くよ〜」


俺が再び白い玉を取り出す。

「まだ、あるの?」
「うん」
「私、自分で飲めるよ」
「だ〜め」


ゼロスは起き上がって俺の手から薬を奪おうと手を伸ばすが、俺がひょいと持ち上げたので無駄に終わった。

「…ロイドくん、キスがしたいだけでしょ?」
「はは、バレた?」
「ばればれだよ…」


俺が薬と水を口に入れ再び顔を近づけると、今度はゼロスも素直に従う。

同じ要領で薬を流し込み、今度はそれだけじゃ離さない。


深く深く彼女と絡むと、アイスブルーの瞳が潤み始めた。



…苦しいのか。


ゼロスに負担をかけさせたくないので、もう一度深く絡んだ後、そっと離した。



「ば、…ばかぁ…」


彼女のほてった顔を見て、何かが音をたてて崩れた。

俺はゼロスの上に乗り、にこりと笑う。


「ごめんな」
「え、…ちょっとロイドく…っ」
「運動したら、風邪治るよ」
「運動って…っ」



布団を剥ぎ取り脱がせやすい(俺が買ってあげた)パジャマに手をかけると、ゼロスはひくんと身体を震わせた。

あーあ、俺最低だなぁ。


…頭ではそう思うものの、身体は勝手に彼女から服を取り去っていく。

熱のせいで力が入らないゼロスは、なされるがままだ。

「…ロイドぉ…っ」
「何物欲しそうな顔してるの」
「ち、違っ…」
「嘘はだめ。ほら、まだ俺触ってないのに、もう濡れてる」
「…ひぅ…っ」


こうなったらもう、止めらんねぇの。
そんな事、俺より彼女の方が身に染みて判ってるわけで。



「も、好きにしてよ…」

とため息のような声が洩れた。


…にしても、『好きにして』なんて、殺し文句もいいとこだ。

ほんのり朱い顔と潤んだ瞳で言われれば、俺でなくとも男であれば理性なんて残ってないだろう。


「は…あ…、っふ」
「ナカ、熱い」



彼女の感じる所なんて、隅々まで全て把握しきっている。

何処を、どの角度で、どんな風に弄られるのが好き…なんて、彼女が俺に言ってくれた事はない。


…口では、ね。


行為中は、彼女の身体が口の役目を担うから。



「…ろい…っふぁ…あぁあっ」

大きく身体をのけ反らせたゼロスは、くたりとベッドに沈んだ。

汗ばんだ額に散る前髪を払い、キスを落とすと、小さく声を漏らす彼女。
無意識にやっているのだから、凄いと思う。


「…ごめんな、ゼロス」

布団をかけてあげて、頭を撫でる。
ぴくりと反応を示すが起きる気配はなく、俺はずっと撫で続けていた。






→おまけ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ