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□06.運動会そのいち
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「…も、もしもし」
『…その声は、ゼロスか』
「…あ、はい。あの…」

声が震える。
別にクラトスさんが嫌いとか、そんなんじゃないんだけど…。

なんか、絡みにくいんだ。


「今日、運動会なんです」
『…あぁ、確かロイドがそう言っていたな』
「それで、み、見に来てくれませんか?」


静かになった受話器を握りしめ、返事をしなくなった彼にもう一度頼む。

「カイトもクルミも、会いたがってますし…。ロイドだって…」
『…そんな余裕はないのだが』
「そうですよね。…ごめんなさい」
『誰が行かないと言った』


え?

耳を疑うような台詞が、受話器から零れた。


『行かせてもらおう』
「あ、ありがとうございます」
『…フ。昼はそちらに任せてよいのだな?』
「は、はいっ」



受話器を置き時計を見ると、6時を回っていた。
弁当の仕上げをしなくてはと、キッチンへ。


「はよー。早いなぁゼロス」
「あ、おはよロイド」

近くで聞こえた彼の声に振り返ると、唇を塞がれた。


「ごちそーさま」
「…毎日飽きないね」
「そりゃ、日課ですから」


それに…、とロイドは耳元でわざと囁く。

「愛してるから」


一気に上昇する体温。

「…そう」
「あれれ〜、素っ気ねーなぁ」


覗き込んでくるしまりのない顔を押しのけ、調理再開。
それでも絡んでくる彼。

「ミニトマト入れようかしら」
「…わ、悪かったよゼロスっ」


トマトを冷蔵庫から取り出すと、必死に謝る彼が可愛くて。

「ん。判ればよろしい」


なんて。
たまにはいじける彼を見るのも悪くない。



「おはよー」
「あ、おはよクルミ」
「あれ?クーちゃん、お兄ちゃんは?」
「寝てるよ」


兎のぬいぐるみを抱き抱えていたクルミは、当然のように言う。

「俺、起こしてくるよ」
「うん、お願い」


ロイドが去った後、クルミはリズミカルに動く包丁を凝視していた。

「ね、おかーさん」
「ん〜?」
「今日は熊のおじさん来る?」
「え?あぁ、ダイクさんならちゃんと来るよ」
「やったぁ」


兎をぎゅうっと抱きしめ、嬉しそうに笑うクルミ。
クルミは本当にダイクさんの事が好きなのね。

「おはよう、かーさん」
「おはよ。カイト、お寝坊さんだね」
「…う〜、だって」
「こいつ、いっちょ前に緊張してやんの。可愛いなぁ〜」
「や、やめろよ馬鹿ロイド」


笑顔で頭をわしゃわしゃ撫でるロイドの手を除けようと必死になるカイト。
子供扱いされるのが嫌いなカイトには、その行動は逆効果だと思うんだけどな、ロイド。
学習して下さいよ。


「ほら、朝ご飯持っていくからテーブルで待ってて」
「はーい。ほら行くぞ、二人共っ」
「何でロイドが一番張り切ってんだよ」



むすっとして呟くカイトの背を押しながら、後ろをついて行くクルミを引き連れてロイドはリビングへ。



カイト、最後の運動会だね。
楽しみだなぁ。




→あとがき
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