□とりっくおあ…とりっく?
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ん〜…。
あぁ、もう朝…?

なんか腰痛ぇなぁ。
畜生〜…。


「ん…」
「…あ、ロイドおはよ」
「はよ〜…」


どくん。

心臓が跳ねた。

あれ、この感じ…


「ロイド…?」
「あ?…あぁ、何?」
「考え事?」
「いーや」

ゼロスが心配そうな顔で近づいてくる。
心臓が早鐘のように鳴りはじめる。

あれ、…何だ、これ…?


ゼロスが、美味しそうに見え……やっぱおかしいっ!!!
どーしたんだろ、俺…。

「熱?昨日やり過ぎたから…」

ぴたっとバンダナをつけていない額が、俺のそこに当たる。

昨日…?
何の話だ?

昨日は…、ゼロスに飴貰って、それで…。

…寝た。


え、記憶喪失…!?
それとも、ゼロスがからかっているのか…?



「ね、ロイド…?どーしたの」
「あ、いや」

額を離して顔を覗き込まれて、彼の首筋で綺麗な緋色の髪が揺れた。

喰いたい。


…は!?
俺、今…?



「ひやぁ!?」

気がついたら、俺はゼロスを押し倒していた。


首筋に噛り付きたい衝動を抑え、慌てて彼から飛びのいた。

「ご、ごめん…っ!!!」
「…もしかして、血が欲しいの?」
「へ?」


ゼロスが起き上がって、首を傾げて俺に尋ねた。
血が、欲しい…?

何故?

頭では判ってないのに、身体が勝手にこくりと頷いた。
ゼロスはふわりと笑い、俺の頭を抱き寄せて首筋にもっていく。


「どーぞ」



恐る恐る彼の滑らかな首筋に歯を立てる。

「…ぃ…っ」

ぴくりと彼が跳ねる。
歯を離そうとしたら、頭を押さえられた。


「だいじょぶ。飲んで?」

言われるままに飲むと、口いっぱいに味が広がる。
それは、今まで食べたどんな物よりも美味しかった。

必死になって飲む俺の頭を、ゼロスは撫でていた。



「…ご、ごちそうさま…」
「うん」
「あの…、」


満足した頃、彼から離れて口を開いてはみたものの、何を話せばいいのか判らず口ごもる。
ゼロスはにこりと笑い、抱き着いてきた。


「我慢、しなくていいから」
「え?」
「血が欲しくなったら、遠慮なく言って」
「あ、…うん」



宿屋の階段を降りると、もう皆集まっていた。


「遅いよ、二人共っ」

ジーニアスがむすっとしている。
彼の首筋を見たけど、何の衝動も起きない。
俺はぐるりと全員を見渡したけど、やっぱりゼロスにしか反応しなかった。


「悪ぃ」
「じゃあ、もう行きましょう。準備はよくて?」
「はーいっ」

コレットが元気よく返事をしたのを合図に、俺達は宿屋を後にした。



何時間歩いただろうか。

大きな石の上に、ぺたりとジーニアスが腰をおろした。

「…喉、渇いたよ〜」

ぽつりと呟くジーニアスに、先生も頷く。

「そうね。お腹も空いてきたし、お昼にしましょう。今日の当番は…」
「あぁ、俺とゼロス」


俺は調理器具を、ゼロスは食材を先生から受け取り、皆から少し離れた。

「何作るの?」
「そーだなぁ…」
「あ、ハンバーグは?ロイドくん好きでしょ?」
「…俺さ、食欲ないんだ」


腹が、一向に減らない。

でも、血は飲みたい。



頭がおかしくなりそうだ。
俺は…、何なんだ…?


「…そっか」
「あ、でもハンバーグでいいと思うぜ?皆好きだろうしさ」
「うん」

野菜を切る俺の隣で、肉をこねるゼロス。
ふわふわと髪が揺れて、見え隠れする首筋に自然と目が行く。


俺の視線に気ついたのか、ゼロスが顔を上げた。

「血?」
「あ、いや…」
「我慢、しないで?」
「…ごめん」


肉をこねる手を止めて、ゼロスは両手を広げた。
大人しくそこに収まり、今朝つけた痕に被るように歯を立てる。

「おいし?」
「ん、」


満たされた所で首筋から顔を上げ、ゼロスを見る。

「俺、おかしいよな」
「え?」
「ゼロスの、その、血が飲みたいなんて…」


ゼロスはふわりと笑った。

「ううん。…元はといえば俺さまが悪いんだし…」
「え?」
「なぁんでもない」



ゼロスは俺から離れて料理を再開する。
気にはなったが、詮索するような事はしなかった。




「はぁい。ゼロスさまの特製ハンバーグの出来上がりよ〜。味わって食べろよぉ?」
「何言ってんの。僕のファイアボールの火加減のおかげでしょ」
「んだとぉくそ餓鬼っ」


暴れる二人を他所に、皆が手分けして組み立てた簡素なテーブルに人数分のハンバーグと野菜を置くと、わぁっと小さく感嘆の声。



「…あら?ロイド、貴方の分がなくてよ?」


先生が俺を見て怪訝な顔をしている。
俺はおろかゼロスまでもがぴくんと反応し、咄嗟の言い訳すら出てこずに目をそらす。


「…あ〜、えっと、食欲なくて…」
「ロイド、お腹空いてないの?」
「あのロイドがぁ?」



心配してくれてるコレットはともかく、訝しげに罵るジーニアスには“思いやり”など皆無だ。
プレセアに体調が悪いのかと聞かれたが、多分違うと思うので首を振る。

「いーや。身体は全然大丈夫なんだけどさ」
「…そう、ですか」
「ごめんな、心配かけて」


プレセアに笑いかけると、彼女も少し微笑み返してくれた。





皆が食べ終わってしまうと、後片付けが待っている。

「行こ?」
「うん」

俺はゼロスを誘い、彼と皿を積み上げて持っていく。


「ふぅ…疲れたぁ…」
「だろうね。そんな顔してる」

皿を洗い終え、完全に乾くまで暇になる。
話でもしようか。


「…ゼロス。お前さぁ、最近女の子を口説かなくなったな」
「へ?」
「だから、ナンパ、しなくなっただろ?」

ちらりと彼を見遣ると、彼は顔を真っ赤にしていた。
川に素足を突っ込み、ぱしゃんと水を蹴りながら、ゼロスは俯く。


「…ゼロス?」
「あ、…うん。あんまする気が起きないから」
「へぇ…」


同じように素足を水に浸けると、ひんやりと冷たく包まれる。

ああ、気持ちいい…。


「ロイドくんも、あんまコレットちゃんと喋らなくなったでしょ」
「…そーいえば」
「昔はあんなに仲良く永遠に喋り続けてたのにさ」
「あぁ、…そうだな。でも…」


彼を抱きしめた。
ぱしゃんと水が跳ねる。

「今は、お前だけ」
「…ん」
「はは、照れてる照れてる」
「う、煩いっ」


ゆっくりと押し倒すと、ゼロスが俺の胸を押した。
可愛い抵抗だけど、とめてやらない。

頬を撫でると、ひくりと反応して目をつむる彼。


「ゼロス」
「…んぅ…っふ、…」

目を開けた彼の、柔らかい唇に俺のそれを重ねる。
舌を探して動くと、奥に縮こまっている彼を発見。
奥から引きずりだし、深く深く絡めると、潤んだ瞳が切なく揺れた。


「ふ…ぅ…っんむ…ふはぁっ」
「ゼロスったら、やーらしー」
「ばか…っ」

流れた涙を舐めとると、ぴくっと震えるゼロス。
抑えられるかな、俺…。


「…そろそろどいてよ」
「どーしよっかなぁ」
「…あ、皆」
「げっ」

慌てて飛びのくと、ゼロスがくすりと笑った。


「嘘」
「う、…うそ…?」
「うん」
「…お前、今夜はしっかり可愛がってやるよ」
「い・や・だ」
「ゼロスっ!!!!」
「でひゃひゃひゃ、ロイドくん可ぁ愛い〜っ」



走って逃げるゼロスを追いかけながら、明日は立てないようにしてやろうと心に誓った。





→あとがき
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