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□最期の願い
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俺は…。
俺は何してんだろ…。



こんな事、大好きなひとを裏切ってまでやる事なんだろうか。

…つーか、こんな事で悩んでる事自体、俺らしくないんだって。


なぁ、ロイド。
俺は、こんな汚れた俺は、…お前を汚く染める事しかできない俺は、お前の傍にいる資格があんのかな。

…いや、ないよ。

お前は綺麗すぎる。
俺が愛するには、荷が重すぎるんだ。


だからせめて、最後はお前に殺されたい。
お前の手で、俺を…。



「…ごめんな、ハニー」


こうする事しかできない俺を、許して。
貴方を愛してしまった俺を、許して。



気持ちを伝える事はできなかったけど、お前と旅ができてよかったよ。

今まで生きてきて、よかったと思うよ。


だから俺は、この思いと共に君の元を去るんだ。

苦しくなんかないよ。


だって、君が俺の最期を見届けてくれるんでしょう?

俺さま、それで満足よ。



「好きだって、言いたかったなぁ…」


白く光る月を見て、目を閉じると涙が伝った。

この思いは、貴方に届かないから。



「…ロイド…」


「何?」


…え…?

今、…声…。

目を開けて振り返ると、月明かりに照らされたロイドくんが立っていて。


「呼んだ?」
「え、あ、いや…、いつからいたの」
「今来たばっかだよ」
「そ、そっか…」


何でお前って、いつもタイミングが悪いのかな。

何も、俺が泣いてる時に来なくてもいいじゃん。
もう、デリカシーのない奴。



「ゼロス、…泣いてるのか」
「ば、ばっかじゃね〜の!?俺さまが意味もなく泣くわけないでしょーよ」
「じゃあ、何か辛い事でもあったのか?」


多分ロイドくんは、本気で俺の事心配してくれている。
鳶色の瞳が切なく揺れるのは、そのせい。

「話して、くれないか?」
「…」
「いやなら、いいけど」
「…ごめん」


言えないよ。
これから貴方を裏切るなんて…、言えない。



「…そうだゼロス。俺、眠れないんだ。お前さえよければ、少し外に行かないか?」
「うん、いいよ」


フラノールの雪がひらひらと俺達を包む。
確かロイドくん、この場所にコレットちゃんと来てたな…。



「…俺は」


不意に見上げられ、俺は思わず目を伏せる。

「ゼロスの事、好き」


ひくりと、小さく身体が反応した。
駄目だよロイド。
そんな事言ったら俺……

「何言ってんの、ロイドくん」
「だから、俺は…っ」
「意味わかんねーコト言うなよ」
「聞けよゼロスっ!!」


肩を掴まれた。
身動きが取れなくて、ロイドくんの顔が真剣で、気が狂いそうな程嬉しくて、切なくて…悲しくて。


恋なんて、するモンじゃない。
愛なんて、知るモンじゃない。

…本気になる程、後が辛い。


そんな事、知っていた筈なのにさ…。



「帰ろうよ。此処は寒いし、俺さま雪嫌いだし」
「…返事、もらってない」
「…っ」
「…悪ィ、急に変な事言って。その…、忘れてくれていいから」

そんな事ないっ
嬉しくて、嬉しくて、…こんなに温かい気持ちになったのは初めてだよ…?
ほんとはさ、コレットなんかに取られたくないんだよ…?


…でも…っ



「そーそー。ロイドくんはきっと、明日の戦いを控えて気持ちが高潮しちゃってるだけだって〜」
「…そっか」
「…ロイド」
「何?」
「俺さま、お前と会えてよかった」


本当に、心からそう思ってる。


「…何だよ、急に」
「いーや、何でも」

にこりと笑うと、心が悲鳴をあげた。
耐え切れないよ、こんな痛み。

あぁ、抑えてたのに。
涙なんか、出なければいいのに…。



ふわりと、身体が包まれて温かくなった。
俺の身体は、彼の中で小さく震えていた。


「泣くなよ、らしくない」
「…ごめ…っ」
「謝んなって。ゼロス弱りすぎなんだよ。…俺があんな事言ったからか?」



違うよ。
お前は沢山の幸せを、俺なんかに与えすぎたんだ。

一時でも、自然な笑顔が出せる空間を作ってくれたんだ。

神子ではない“ゼロス”としての俺を認めてくれたんだ。


だから、この恋はもう終わり。
最後に両思いだって確認できただけでも、幸せ。
俺は貴方に殺される。

それは、俺の望んだ末路。



ロイド。


…貴方を、愛しています。
この世で一番……



生きて、生きて、生き抜いて下さい。


もしも。
もしも、俺の最後の我が儘を聞いてくれるなら…。


貴方の心のどこかに、どうか俺が生きたという証を。





…俺を、忘れないで下さい。




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