!長編

好きだと言って
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僕の体はこの男の玩具と化した
太い人差し指で首からヘソの下をゆっくりと上下に何度もなぞる
僕はその度に体を震わせると鳥肌を立てた
男はその様子を見てニヤリと口元を上げる

ゾっとした

この男は僕で遊んでいる
怖がる僕を見て喜んでいる

男の行動は次第にエスカレートしていく
僕の胸を舌で舐めながら乳首を何度もつまみだし、息は荒くなり僕の下半身に何度も股間を押しつけてくる

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…

「…っ、やめろ!」
かすかに残っていた力で男をドンッと両手で突き飛ばすと、僕の横に落ちた
目の前は男の姿ではなく真っ白な天井が見えた

チャンスだ
僕は急いで起き上がる

「あ、あれ…」
しかし体が思うように動かない
恐怖で全身が震えている
四つん這いになりながら、必死にドアの方まで向かった

「いて!」

遅かった
男に強く腕を掴まれ、後ろに引っ張られた
後ろを振り返ると男は鋭い目つきで僕を睨んでいた

「離せってば!」
恐怖で目から涙が出る
頭がパンクしそうだ
涙で男の顔は滲んでる。
それが救いだった。
怖くて、見たくもない

「んぐぐ」
男はそのまま僕の顎をもって唇を押しつけてきた
信じられない
初めてのキスだった
こんな男とまさか
別にとっておいたわけでもないけれど
でも、そんな

無気力だ
力がでない。
涙が頬を伝う
ぼやけた視線の先の男の顔は少し喜んでいるように見えた

その時

「平田ー、あれ、どこ行った?平田ー」
廊下から《平田》という名を呼ぶ男の声がした


―――― 助けて!


「…ん、んー!!」
神様はいた。
そう思った。
僕は無我夢中で腕や足を動かす。
しかしこの男の力は僕より何倍も強かった。
全く動けない。
僕は塞がれている声を振り絞って《平田》を呼ぶ男に助けを求めた

「…た、たすけッ…!」

「平田ー!あれ、ここ閉まってる…?」

通じた
《平田》を探している男の影がドアの前で立ち止まる

「チッ」
目の前の男の舌打ちが耳に届くと、僕を突き飛ばした
男はそのまま教室のドアを乱暴に開けた

「おい、どうした」

「あ、やっぱ平田いたんだ。え、何してたの?」

《平田…》
ここで男の名が《平田》というのだと知った

「…いや別に」
《平田》は僕の姿を背中でかぶらせて男に見えないように隠した

「ふーん。なぁなぁ、今から出かけるんだけどお前も行く?」

「あー、そうだな、っあ」

僕はタイミングを見計らって《平田》を思い切り突き飛ばすと、全速力でその場から逃げた

その瞬間、平田を呼んだ男と目が合った
「え?なに、お前どうし…」
男はそう言いかけると僕の姿を見るなり眉間に皺を寄せた。
その表情は明らかに引いていて、僕はお礼も言わずにその場から逃げだした
ネクタイを持ち、ボタンが空いた制服を着たまま、声をひくつかせて泣いた


悲しくてショックで心と頭が破裂しそうだった



「誠二さんに会いたい」
僕は無我夢中で誠二さんの元へと走った
誠二さんがこの出来事を笑い飛ばしてくれたらそれで良い

誠二さんの笑った顔だけが今の僕の救いだった
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