!長編

好きだと言って
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ガタッ―

腰が机に当たると、その男はまた一歩と近づいてきた

「こ、こっち来るな!」
声を振り絞り手をかざすと男はその場で足を止めた

良かった…
僕は胸を撫で下ろし、タイミングを見計らって逃げようとした

その時
「、、、なんだ…」
と男はかすれた声で何かを言いかけた

「好きなんだ…」

かすかに聞きとれた言葉はあまりにも信じられない言葉だった

「は?」

「好きなんだ、お前が」
今度はハッキリと聞こえた
目の前にいる正真正銘の男が僕を見てそう言っている
辺りを見渡しても教室には自分しかいない
ふざけているのか?
僕は男を睨んだ

「ふざけんな、何が目的だ」

「違う。本当だ。一目合った時から俺はお前が」

「嘘だ!誰がそんな嘘に引っかかるもんか、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
僕が強気に出ると男の顔が少し歪んだ。
でもいくら声を張り上げても体は正直で手と足はガクガクと震えていた

「こっち来るな!」
震える僕を見て男は口元を上げると再び近付いてきた
今度は何を言っても足を止めようとしない
どんどんこっちに向かって歩いてくる

「本当に好きなんだ。信じてくれよ」

「やめろ、これ以上こっちに来たら…」

男の目は僕の心臓に鋭く突き刺さった
怖い
その目を見てると体が硬直して動けなくなりそうだった

「うわっ」
男は力づくで僕を机の上に押し倒すと腹の上で跨いだ

「どけ、ふざけんな!」
何ど足で蹴ろうとしても男はびくりとしない
それどころか僕が動くほど男の力は強くなった

「好きなんだ、お前が」
男の息は荒くなって顔に吹きかかる
気持ち悪い
助けて
僕は体をよじくれた
怖くて涙が目にたまる

「離せ…」
僕は無我夢中で男の肩を両腕で掴んだ

「…はぁ、はぁ」
男は息を荒くさせ、ひょいと軽く両腕を片手で掴むと頭上に持ち上げた

「ぐっ…」
両腕も掴まれた僕にはもう為す術は無い

溜めていた涙が頬を伝ってこぼれ、僕は抵抗することをやめた

男は首にかけている僕のネクタイを強引に外すと制服のシャツのボタンを毟り取った
ボタンが僕の頭上を飛んで行くと男は胸に顔をうずくめた

《怖い助けて》
そんな感情はもう消えていて、早く終わることだけをただ願うだけだった
この最悪な出来事が終わったら誠二さんに慰めてもらおう
それだけを考えていた
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