!長編
□あんま見んなよ
23ページ/35ページ
4
扉が開くとチリンチリンと音がなるこの喫茶店
『いらっしゃいませー、何名様ですか?』
ほんの何十分の間に一体何回この台詞を聞いただろうか
店員は一人一人に笑顔を振りまきながら接客をしている
久々に坂口と会える
広樹はそのチリンチリンという音にやたら敏感になっていた
「広樹、貧乏ゆすり止めろよ」
「うるさいな、関係ないだろ」
そう言って広樹は珈琲を口につけた
他人から見て分かるほど
広樹は緊張していた
そんな様子を見て橘は
「はあ…」
と大袈裟に溜め息をついた
「何だよその溜め息…」
「別に」
明らかにふてくされたような顔で橘も珈琲を一口飲んだ
そのとき
再びチリンチリンという音が店内に鳴り響いた
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
「えっと、待ち合わせなんですけど」
その声がかすかに聞こえた瞬間、広樹の鼓動が速くなった