!長編

好きだと言って
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この雨はいつ止むんだろう
僕は申し訳程度にカーテンを開けて外を覗いた

雨はさっきよりも激しくなっている
まだ16時だというのに外は薄暗い

「…止まねーな、雨」
すると、突然後ろから声がした。
振り返ると、壁にもたれながら上半身裸で、あの人が立っていた

「…いや、あの、ごめんなさい」
僕は驚いて慌ててカーテンを閉めた

「いや、全然いいけどよー、
帰れるか、これー」
この人は苦笑いを浮かべてそう言うと、僕の上からカーテンを開けた

ピクッと体が少し反応して、上を見上げるとその人の顔がすぐ近くにあった。
僕は慌てて下を向くと、そのまま何故か動けなかった

しばらく外を眺めたあと、この人は僕から離れて横に置いてあったモノクロのベッドに座った
少しホッとした

「つか、家どこよ?送ってく」
白いTシャツを着たこの人は、煙草を口にくわえてそう言った

「いや、いいです…傘貸してもらえれば…帰ります」

「いいよ送ってくよ、遠いし」
そう言って、僕が断ったのも聞かずにこの人は車の鍵を取り出した

「…本当に強引ですね」

「あのな、親御さんが心配すんだろ」

「…別に、帰ったって誰もいないし」

小声でぼそぼそと言ったつもりが、この人の耳にとどいたらしく、眉間にシワを寄せた

「仕事とか?」

「…違いますけど」

「なんだよ、言え」

何で命令口調…
さっき会ったばかりなのにズケズケと人の中に入ってくる
僕とは真逆のタイプだな

「…離婚した。母さんは、いま男の所にいる」

こんなこと誰にも言ったことなかったし言う相手もいなかったけど、別にもう気にしてなかった
でも何でそんな顔すんの
この人

「ごめん、ちょっとショック」
「何でアンタが…」
「あまりにも不憫で」
「同情とかしないで下さい」
「ははっ、だよなあ」

そう言って笑ったこの人は車の鍵を財布に閉まうと、もう何も僕に聞いてこなかった


「とりあえず名前おしえろ」

「…とりあえず?」

「いいから、教えろや」

「…岡、真」

「マコト」

いきなり真面目な顔で名前を呼ばれて少しビックリした
名前を呼ばれるのも久しぶりだった僕は何だか妙な気持ちになった


「泊まってけ、ここ」

「へ?」

「そして、コレ」

僕が呆然としているとこの人は棚の中から鍵を取り出して僕に差し出した

「なんですかコレ」

「ここの鍵」

「え、なん…」

「合い鍵な。いつでも来ていいから」

そう言ってこの人は顔をくしゃくしゃにして笑った


気づいたら
僕は泣いていた


「同情とかすんなっ…」
「はいはい、よしよし」

タバコを灰皿において、この人は泣いている僕の頭を何度も何度も撫でてくれた


「ちなみに俺の名前は高倉誠二」

「高倉……………さん」

「誠二さんな」

「…誠二さん」

「よく言えました」






この日から
僕は誠二さんのことが好きだったかもしれない

でも完全にこの気持ちに気づいたのは

思い出したくもないあの光景の出来事
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