!長編

好きだと言って
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誠二さんと出会ったのは、
確か6年前の雨の日
僕は高校生で誠二さんはもう働いていた


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降りしきる雨の中で
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「雨?」
学校がようやく終わって、
また明日も学校か、なんて暗いこと考えながら家に帰る途中、突然雨が降ってきた

朝から少し嫌な予感はしてた。
でも、新聞を見ても朝のニュースを見ても『晴れ』

だから、傘なんて必要ないって思ってた

それなのに…
本当、つくづく天気予報ってのは当てにならない。って思った
僕は、辺りを見渡す
どこかに雨宿りが出来るいい所…

「…あそこでいっか」

ちょうど近くに屋根のある喫茶店を見つけた。

高そうな店だったから、入らずに屋根だけ借りた



********



しかし…
「いつになったら帰れるんだよ」
その雨は、願いとは裏腹にどんどん激しくなっていく
止む気配はいっこうに無さそうだ

この際走って帰ってやろうかと思った

そのとき

「凄い雨だなー」

雨の音と一緒に、低い男の声が僕の耳にかすかに届いた

「はあ…」
声がした方に僕は顔を上げると、スーツを着た男性が笑顔で立っていた

「俺も雨宿り混ぜてもらう」

「はあ…どうぞ」
僕は少しだけ横にズレる
その人は、全身雨でぐっしょりと濡れていた

「今日、晴れじゃなかったのかよ」

その人は、濡れた頭を手でわさわさと払いながら僕に話しかけてきた

「…何かそうみたいですね」

だから僕も話に乗った

「天気予報って当てにならないね」

「そうですよね…。僕も思いました」

僕が思ってたことと同じことを思ってた。ってだけで初めてあったこの人に少し親近感を持った

「きみ、何歳よ?」

「…17」

「え、高校生?」

「…はい、一応制服」

「あ、それ制服?暗くてよう見えんかった」
そう言って顎に手を置きながら僕の格好をまじまじと見る

その姿をただ見ていたら、今度は僕の顔をじろじろと見だした

「…な、なんですか」

「今の高校生って綺麗な顔してんだな」

「っ!」

ふいに言われて、僕は言葉を失った

「そんなに驚くことか?」

「…いや、別に」

「なんだよ、それー」
初めて会った僕に、この人はよく話してよく笑う
きっと仕事でも上司とか同僚に好かれているんだろう
と初めてあったくせにそう思った

「…そっちこそ、何歳なんですか。別に知りたくもないですけど」
僕は止まない雨を見つめながら余分な一言を添えてこの人に尋ねる

「…実は、俺も17なんだよね」
「へえ、全く見えないですけど」

「だろ?よく言われるー」

「…スーツ着ながら学校行ってるんですか」

「それもよく言われるんだけど、スーツに見えて制服なんよコレ」


「……………」


「ごめんごめん、22」

僕がどう突っ込もうかと悩んでいたら、その人は白状してくれた
上だとは思ったけど、5歳も上には見えなかった

「…何で嘘ついたんですか?」
「何となく」

「何ですか、ソレ」
僕は呆れながら、また止まない雨を眺める

「雨、止まねーな」

「…はい、最悪です」

僕はため息をつく
でもそこまで最悪な気分じゃないのは…よく分からないけど、この人のおかげだと思った


「あ、ちょっと待って。今、思い出したんだけど」
突然その人はハッとした声を出した。
何かを思い出したらしい。
おもむろに鞄をごそごそとあさりだした。

「何、してるんですか?」

僕はその人の鞄を覗いた


「ああー!やっぱりだ、折りたたみ傘…忘れてた」

その人が取り出したのは小さく折りたたんである紺色の傘だった

僕達はそれを見て笑った

「…バカですか?」

「うん。うわー、バカだー」

その人は折りたたみ傘を抱きかかえると、へなへなとしゃがみこんだ

「良かったですね」
僕はそう言ってまた外を眺める
この人が帰ったら僕は走って帰ろう

そう思った
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