!長編

好きだと言って
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「嘘だろ…?」




僕があんな事を言わなければ、貴方のそんな顔を見なくてすんだのに

僕達はこんな運命を辿らなくてすんだのに


今は後悔でいっぱいで
どうしようもなく涙が溢れて

…お願いだから、
僕を嫌いにならないで

お願いだから



好きだと言って



部屋に入ると、
ほのかに香る煙草のニオイ。

そのニオイは僕を
どこまでも癒してくれる。

煙草は吸わないから好きじゃないけど、
"あの人"の煙草は好きだ

よくを言えば、
あの人の煙草を吸う姿が好きだ


************


―ガチャ

しばらくボーっとしてると、ドアが開く音がしたので僕は振り返った。

「…来てたのか?」

"この人"は僕を見つけるとそう言って、少し驚いていた

僕が電気もつけずに座っていたからビックリしたんだと思う

「連絡ぐらいしろよ。電気もつけろ。慣れたけど」
この人は耳をいじりながら、ソファーに自分の鞄やら上着やらを投げつけた

「…ごめんなさい」

僕はいつもの癖で謝ると、この人は優しく微笑んで「そのクセ飽きた」と呟き、僕の横に座る。
綺麗な手で煙草を持ち、口にくわえて火をつける。

そんな姿さえも僕は目が離せない


「おじさん1人で可哀相とか思ってたんだろー、そうだろー」
煙を吹かしながら、あなたは冗談っぽくそう言うと顔をくしゃくしゃにして笑った


「…おじさんとか言うなし」
「言ってないです」


ここに来るのは何度目だろうか

あなたからもらった鍵を大事に保管して、
連絡もせずに遊びに行く


その時は、僕はペットのように尻尾を振りながらあなたの帰りを待つ

『奥さんみたい』とか
そんな図々しいことは言わない
あなたの癒しになりたい
あなたと一緒にいたい

あなたの顔を見るだけで僕はほだされ、落ちつき、癒される

「…お前、煙草吸えないんだよなあ」

「そんなにおいしいですか?」

「おいしいってか、なんだろーな。依存症みたいなやつだと思うぞー。でもお前は吸うなよー」

「…吸いませんよ」

依存症。
僕は、あの人に依存されている『煙草』に少し嫉妬する


「…あ、仕事お疲れ様です」

「言うのおせー。つかお前もな」

「…はい、お疲れ様です」

仕事から帰ってくるこの人の姿に今でもまだ緊張する

緩めたネクタイ
腕まくりした二の腕
ボサボサな髪の毛
第二ボタンをはずしたとこから見える色っぽい鎖骨

僕はそれだけで興奮して夜も眠れないんだ


「お前明日休み?」

「…うん、誠二さんは?」

「仕事だよ、ばかやろう」

「はは。頑張って下さい」

そう言ってこの人だけに見せる僕の顔
こんな日常が当たり前で、幸せで、
ずっとずっと続けばいいと思っていたのに…
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