☆妄想の釜:奈落の碗
□その壱
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<ハユツク室>
三「……何してるんだ二人して」
和「え?何って……」
日「見て解るでしょう。味噌汁飲んでるんですよ」
三「…………」
和「数日飲んでないと懐かしくって。日織がインスタントのを持って来てるって言うから貰ってたんですよ」
日「三笠さんもどうですかい?」
三「……そうだな、貰おうか」
日「はいどうぞ。お湯のポットはそこですぜ」
★ ★ ★
三「……しかし一柳くん、もう少し気をつけた方が良くないか?」
和「?何がですか?」
三「俺は狂言のことをもう知っているからいいようなものの、今ここに来たのが俺以外の誰かだったらどうする。教授とかな」
和「あ」
三「この部屋じゃ日織も変装を解いてるしな」
日「あはは」
三「笑い事じゃない。一柳くんがここに入り浸ってるのを誰かが知ったら、ハユツクの正体に気付いてもおかしくないぞ」
和「それもそうですね」
三「見抜けなかった俺の台詞じゃないが、よく今までばれなかったな。特に一柳くんに」
日「細心の注意を払ってましたからね。和さんの部屋とか」
三「?」
和「ああ、三笠さんは知りませんでしたっけ?僕の泊まってる部屋、覗き穴があるんですよ。隠し通路から部屋の様子が解るように」
三「…………」
日「廊下で鉢合わせしないように、和さんを確認してから動いてたんでさぁ」
三「………………」
和「三笠さん?何で椅子ごと後退してるんですか?」
日「しかも和さんの方に寄っていってるし」
和「顔色もなんか悪いです」
日「それに俺を見る目つきが変ですぜ」
三「……一柳くん」
和「はい?」
三「何とも思わないのか?外見からはそうは見えないが、いい年した男を、これまたいい年した男が監視してたんだぞ?」
和「あの、『外見云々』は入れなくても……」
日「和さん、その辺は流した方が和さんのためですぜ」
和「…………。えっと、何とも思わないって――どーゆー意味ですか?」
三「だから、お前っ、少しはこいつに危機感とか抱かないのかっ!?」
和「危機感?ああ、気の使い方がずれてるとかそういう?」
三「違うっ!!」
日「えらい言われようですがね三笠さん、あんたに言われたかないですねぇ」
和「日織?なんか顔怖いよ?」
三「……どういう意味だ?」
日「聞きましたよ和さんに。猫の写真のこと」
和「わああっ!!言わないでって言ったのに!!」
三「…………」
和「すっごく恐い目で睨まないで下さい三笠さんっ!!日織は知ってると思ったんですよぉ!!だからごめんなさいっっ!!」
日「猫好きを恥じるようじゃ、真の猫好きとは言えませんや」
三「……なんだと?」
和「そこなのっ!?ていうか三笠さんも食いつかないで!!」
日「俺なんか、家の庭に来る野良猫にまで餌をやるほどの猫好きですからね」
三「……俺だってそれくらいやってるぞ。それどころか道端の野良猫にだってやる」
和「張り合うとこですか!?」
日「俺はその野良猫達に名前を付けてますぜ」
和「付けてんの!?」
三「俺もだ。しかも一匹一匹の出没地点の地図を作ってる」
和「地図まで!?」
日「ふっ(嘲笑)。そんなことですかい。俺は近所の飼い猫まで把握してまさぁね」
三「な、何!?」
日「そしてその散歩コースまで調査済みです」
和「ああ、ある意味野良猫より難しいよね、それ」
日「更に、飼い主と仲良くなって写真を取り放題です」
三「くっ……!」
和「それも三笠さんには難しそう……」
日「この間なんか、生まれたばかりの子猫の名付け親になりました」
三「な、なんだとっ!?」
和「あ、いいなあそれ」
日「というわけで和さん、日本に帰ったらその子猫たちに一緒に会いに行きましょう」
三「…………!!」
日「勿論、人を変態扱いしてはばからない人は連れていきません」
和「あ、そこに行き着くんだ」
三「う、羨ましくなんかないからなっ!!ちくしょー!!」
和「み、三笠さん……!!」
日「あー、行っちゃいましたね」
和「なんか涙声だったような……」
日「放っておきなさい、和さん」
和「……日織、実は結構怒ってた?」
日「そんなことないですよ?あっはっは」
和「………………」
そんなこんなで、完。