★妄想の釜:奈落の碗

□俺の六日間戦争
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★12月27日の日記


『クリスマスは二人っきりで過ごしませんか?主にベッドの上で』と和さんを誘ったら、「『クリスマスは押入れの中で読経してすごせ』ってじーちゃんの遺言だから無理」って断られた。

確かハロウィンにも『菓子まみれになって遊び倒しませんか?主にベッドの上で』って誘ったら、「じーちゃんに『ハロウィンは中をくり貫いたかぼちゃを被り、タンスの中でナフタリンの匂いを嗅ぎながらすごすように』って育てられたから無理」って断られたっけ。

俺のじーさんは優しくも厳しい人だったけど、和さんのじーさんの厳しさには敵わなねえなあ。ていうかちょいとマニアックだな、和さんのじーさんて。

そういう訳で、正月こそはって意気込んで、友人のアルに頼み込んで、例の城に和さん用の部屋を確保してから、和さんを海外旅行に誘った。

俺専用の部屋はあるから、和さん用の部屋なんて必要ないって思ってたんだけど、ティーロさんが「私の目の黒い内は、好き勝手させませんよ!」と言ったからだ。
ちなみにアルは、「黒くないのに『黒い内』だって!ぷふっ!」と笑っていた。流石伯爵、器が違う。

日本の伝統行事には、流石の和さんのじーさんもマニアックな掟を設定してなかったようで、和さんは笑顔で了解してくれた。
それどころか、「そんな素敵な友達がいたなら、もっと早く紹介してくれたら良かったのに!」とやっぱり笑顔でデコピンを百回された。
俺のデコから血が出たけど、拗ねた和さんの可愛さを見れたからどうってことない。

そういえば、和さんが「もはや国家権力に頼るしか、奴を抹殺する方法はない……」とか呟いてたけど、何か悩み事でもあるんだろうか。
遠慮せずに俺に相談してくれりゃ、全力で力になるってのに。

飛行機の中では、当然和さんと隣同士の席だ。
向こうに到着するまで和さんと乳繰り合おうと思ってたのに、和さんに手渡されたコーヒーを飲んだ途端に強烈な眠気が襲ってきて、ずっと爆睡してしまった。
俺も疲れてたのかな。和さんの事を考えすぎて☆

でも飛行機でずっと寝てたおかげで、空港から城までレンタカーで移動してる間、すっきりとした頭で運転する事が出来た。
しかも助手席では和さんの可愛いうたた寝を見る事が出来たので、百枚くらい写真を撮っておいた。

和さんも疲れてるのか、寝言で「デコが光を反射してまぶしいんだよ!タコ」とか「始終何か企んでる笑みを浮かべるな、変態めが」とか「貞操だけは守りきります、じーちゃん」とか呟いていた。
一体どんな悩みを抱えてるんだろうな、和さんは。気になるので、和さんの寝言は全て録音しておいた。

やっぱり和さんは吊橋も怖かったようで、吊橋を渡っている途中で立ち止まってしまった。
震えている和さんもチワワみたいで愛らしいけど、寒い外にずっといたら風邪をひいてしまいかねない。

だから「俺が塔まで運んでさしあげますぜ、姫抱っこで」と優しく言ったら、和さんは悲鳴を上げて塔へ向かってダッシュした。
和さんたら恥ずかしがっちゃって、奥手な人だなあ。

玄関ではティーロさんとアルに挨拶した。ついでに「和さんは俺の大切なお方だから、手を出したら駄目ですぜ」とアルに釘を刺しておく。

アルは「日織は相変わらず(自主規制)だね。ぷふっ」と笑ってたけど、伯爵だけに油断は出来ないなと思ったから、ひよこ饅頭を渡しておいた。ついでに「ひよこ饅頭はお尻からかじるのが礼儀だ」と教えておいた。

ティーロさんはアルしか眼中にないから大丈夫。でも今後の為に、俺のお手製の「SDあるのると人形」をそっと手渡しておいた。
ティーロさんは大層喜んで、スキップしながら俺達を部屋に案内してくれた。

千絵子さんは彼氏がいるし、ザックさんとネリーさんはデキてるし、教授は霊にしか興味ない。クレアさんとジョージさんはアルの心配ばかりで忙しい。
それでも一応、アルにも言った注意事項を繰り返しておいた。皆笑顔で「わかってる」と頷いてくれた。

ついでに何故か皆揃って、和さんに「心を強く持つように」とアドバイスをしていた。和さんは何故か虚ろな目をして「あははははは。強くてもやってらんねーよ」と笑っていた。
慣れない海外旅行で、緊張のあまり錯乱してるんだろうか。

ともあれ、そういう風に大多数のお方が俺と和さんを応援してくれているというのに、三笠さん(36歳・独身彼女なし)だけは顔を合わせるなり「猫の写真よこせ」と催促してきた。
なんて自分の欲望に正直なお方だ。こんな大人にはなりたくない。

そういえば、俺が招待されたのと、和さんも招待するのを許されたのも、何か理由があったような気がするけどまあいいや。
俺が忘れるくらいだから、大したことじゃないだろう。

今一番大切なのは、和さんを見守ることだ。
という訳で、和さんの部屋を隠し通路から覗き見していたら、和さんは部屋中に何かのお札を貼り捲くり、俺の写真を壁に釘で打ちつけていた。

和さん、四六時中俺の顔を見ていたいからって、そこまでやるなんて……!

日織、照れちゃう☆


★12月28日に続く
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