★妄想の釜:雨格子の碗

□高遠家でこんにちは
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<高遠家>

和「うわあ、庭に猫がたくさんいるね!」

日「うちで飼ってるのは一匹なんですがね」

和「ふうん、どの猫?」

日「あの木陰で寝てる太めのトラです。縄張り意識の低い猫でして」

和「飼い主に似たんじゃ……。名前は何ていうの?」

日「はい、ベンジャミンです」

和「べん?」

日「ベンジャミンです」

和「…………。い、いい名前だね」

日「何で目を逸らしながら言うんですかい?」

和「えっと、お客さんの猫には名前あるのかな?」

日「よく来る野良たちには付けてますよ」

和「ふーん、どの猫が何て名前?」

日「そこで餌を食ってるのがフランソワです」

和「ふ、ふら……?」

日「フランソワ」

和「あ、ああそうなんだ……。じゃああっちで寝転んでる黒いのは?」

日「ロビンソンです」

和「ろ?」

日「ロビンソンです。何でいっつも聞き返すんですかい?」

和「ご、ごめん。ちょっと耳の調子が悪いんだよ」

日「ああ、そうなんですかい?早めに病院に行った方がいいですよ」

和「う、うん……。で、縁側にいるのは?」

日「ああ、あれはアレクサンドリアです」

和「……あ、アレクサンドリアね。あは、あははは……、じゃ、じゃあ庭の隅で穴掘ってるのは?オスカーとか?それともロクサーヌかな?」

日「いえ、あれは田中さんです」

和「……ごめん、目の調子も悪いみたい。あそこにいるのって、猫じゃないのかな?」

日「犬に見えますかい?」

和「……猫だよね。もう一度名前教えてくれる?」

日「田中さんです」

和「……田中さん家の猫なの?」

日「野良だって言ったでしょ」

和「何で田中っ!?ねえ何で田中なのっ!?」

日「何でって言われても……」

和「なんかあの猫に恨みでもあんのっ!?しかも田中って苗字じゃん!!」

日「田中さんって顔でしょ?」

和「悪いけど、日織の猫もベンジャミンて顔じゃないから!!フランソワって顔でもないし、ロビンソンもあからさまに日本猫だからっ!!」

日「何でそこまで必死になるんですかい」

和「田中可哀相だろ!!仲間はずれにするなよっ!?」

日「ていうか何でそこまで田中さんに肩入れするんですかい?」

和「日織こそ田中に酷いだろっ!?田中が嫌いなのっ!?」

日「いえ、嫌いなのは鈴木でさぁ」

和「鈴木っ!?」

日「はい、たま〜にやって来て、ベンジャミンに喧嘩を売るんでさぁ」

和「追い払えよそんな奴っ!?」

日「そーゆー訳にもいきませんや。だって回覧版持って来てくれてるのに」

和「鈴木って猫じゃないの!?」

日「誰が猫だって言いましたか。隣の小学生ですよ」

和「田中は『さん』付けで鈴木は呼び捨てかよ!?」

日「今度は鈴木に肩入れですかい、和さん」

和「鈴木にも『さん』付けしろよっ!?」

日「なんでです。鈴木の奴も、俺を呼び捨てにするんですぜ?」

和「心狭っ!!ってか小学生と張り合うなよ!?」

日「ひでぇなぁ。俺はどんな相手とでも対等にお付き合いしてるだけですぜ?」

和「ああもう、どこからツッコめばいいのかも解らない……」

日「あ、和さん、渡辺さんが来てますぜ」

和「誰のってか何のことだよ……」

日「最近庭に住み着いた青大将です」

和「うわああぁぁっっ!!」


※全国の田中様、鈴木様、渡辺様すいません:しゃもじ。


微妙な空気で、完。

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