★妄想の釜:雨格子の碗
□役者たちの憂鬱
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1:見えたのが日織なら
<台所>
日「あ……」
和「ん?どうしたの日織?」
斑「き、君ぃ!まさか私が見えるのかね!?」
日「……和さん、心して聞いて欲しいんですがね……」
和「な、何?突然真面目な顔して。……言っとくけど僕駄目だからね?一応男だし」
日「…………。何言ってんですかい。そうじゃなくて、そこ……」
和「へ?……冷蔵庫がどうかしたの?」
日「いやあの、冷蔵庫の前に……」
斑「やっぱり見えておるのかね!?いやあ、私が見込んでいた通りだ!!君は他の者とは一味違うと思っておったのだよ!!」
和「れ、冷蔵庫の前に?何?まさか斑井さんがいるとか言うんじゃないだろうね?」
日「……ええと……」
斑「ほらさっさと言いたまえよ君!!偉大な私の存在を!!」
和「日織はそんな悪趣味な事言ったりしないよね?ね?」
日「…………」
斑「ほらほら!どうしたのかね!?この少年に教えたまえよ!!」
日「……すいません。ただの汚れでした。見間違えちまいました」
斑「な、何ぃ!?」
和「なあんだ、見間違いかあ。驚かせないでよ。びっくりしたなあ」
日「どうも取り憑かれ……じゃない、疲れてるようです」
斑「何を言っておるのかね君は!?確かに今目が合ったじゃないかね!?」
和「無理ないよ。こんな異常事態なんだもん。疲れて当然だって」
日「確かに異常事態でさぁね。憑かれるなんて」
斑「今『憑かれる』って言ったよね!?君!!」
和「いや、どんなに頑丈な人でも疲れるって意味なんだけど……」
斑「やっぱり見えてるんじゃないかね君は!?」
日「いや見えてなんか……おっと」
和「へ?」
斑「今返事したよね!?君ぃ!!」
日「…………」
和「日織?何で口押さえて冷汗かいてんの?」
斑「観念したまえよ君ぃ!見えてることを認めたまえ!!」
和「日織?」
日「……あ、お湯沸きましたね。麺を入れましょうか」
和「……確かに沸いてるけど、何今の不自然な流れ」
斑「こら!私から目を逸らすんじゃない!!」
日「ちょいとどいてもらえますかい?麺を湯がくんで」
和「もうどいてるよ」
斑「おお失礼……じゃなくてだね君ぃ!!」
日「あ、いや、危ないから離れてて下さいって意味でさぁね」
和「あ、うん」
斑「何誤魔化してるんだね君は!?今のは私に言ったんだろう!?」
日「ちょっ……耳元で叫ばないで下さいや」
和「……誰に言ってんの、誰に」
斑「ほらまた返事した!!」
日「ああ失礼。ただの耳鳴りでさぁね」
和「なんか特定の誰かに向けて言うような口調だったけど」
斑「私に言ったんだよね?ね!?」
日「何言ってんですかい?そんなことありませんや」
和「……日織、どこ見て言ってんの。しかもイイ笑顔で」
斑「ほら私に言ってるじゃないか!!」
日「ああ、そこにいる蚊に向かって言ったんでさぁ」
斑「蚊!?」
和「確かに蚊はいるけど……日織、大丈夫?いろんな意味で」
日「……も、申し訳ねぇ……。神経がささくれだってるせいで、自分でも何が何だか……くっ!」
斑「こら!何同情引く演技をしてるのかね君は!?」
和「!!……そ、そうだよね。人が死んでるんだもんね……それが当たり前だよ。……ゴメン、変な事言っちゃって」
斑「騙されてる!!騙されてるよ君!!」
日「そう言って頂けると……ありがとうございます」
斑「殊勝になる相手が違うだろう!?」
和「いいよ、気にしないで。……あ、麺大丈夫?」
日「ああ、茹で上がりましたね。それじゃあ食いましょう」
斑「おい、こら、君」
和「娯楽室でいいかな」
日「どこでも。余計なものがいなければ」
斑「余計!?邪魔者扱い!?」
和「今何か言っ……いや何でもない……(相当疲れてるんだな、日織)」
日「ささ、娯楽室にゴー!ですぜ」
斑「こら、待ちたまえよ、君ぃーーーー!!」
バタン。
日織編、完。
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