★妄想の釜:雨格子の碗

□役者たちの憂鬱
1ページ/8ページ

1:見えたのが日織なら

<台所>

日「あ……」

和「ん?どうしたの日織?」

斑「き、君ぃ!まさか私が見えるのかね!?」

日「……和さん、心して聞いて欲しいんですがね……」

和「な、何?突然真面目な顔して。……言っとくけど僕駄目だからね?一応男だし」

日「…………。何言ってんですかい。そうじゃなくて、そこ……」

和「へ?……冷蔵庫がどうかしたの?」

日「いやあの、冷蔵庫の前に……」

斑「やっぱり見えておるのかね!?いやあ、私が見込んでいた通りだ!!君は他の者とは一味違うと思っておったのだよ!!」

和「れ、冷蔵庫の前に?何?まさか斑井さんがいるとか言うんじゃないだろうね?」

日「……ええと……」

斑「ほらさっさと言いたまえよ君!!偉大な私の存在を!!」

和「日織はそんな悪趣味な事言ったりしないよね?ね?」

日「…………」

斑「ほらほら!どうしたのかね!?この少年に教えたまえよ!!」

日「……すいません。ただの汚れでした。見間違えちまいました」

斑「な、何ぃ!?」

和「なあんだ、見間違いかあ。驚かせないでよ。びっくりしたなあ」

日「どうも取り憑かれ……じゃない、疲れてるようです」

斑「何を言っておるのかね君は!?確かに今目が合ったじゃないかね!?」

和「無理ないよ。こんな異常事態なんだもん。疲れて当然だって」

日「確かに異常事態でさぁね。憑かれるなんて」

斑「今『憑かれる』って言ったよね!?君!!」

和「いや、どんなに頑丈な人でも疲れるって意味なんだけど……」

斑「やっぱり見えてるんじゃないかね君は!?」

日「いや見えてなんか……おっと」

和「へ?」

斑「今返事したよね!?君ぃ!!」

日「…………」

和「日織?何で口押さえて冷汗かいてんの?」

斑「観念したまえよ君ぃ!見えてることを認めたまえ!!」

和「日織?」

日「……あ、お湯沸きましたね。麺を入れましょうか」

和「……確かに沸いてるけど、何今の不自然な流れ」

斑「こら!私から目を逸らすんじゃない!!」

日「ちょいとどいてもらえますかい?麺を湯がくんで」

和「もうどいてるよ」

斑「おお失礼……じゃなくてだね君ぃ!!」

日「あ、いや、危ないから離れてて下さいって意味でさぁね」

和「あ、うん」

斑「何誤魔化してるんだね君は!?今のは私に言ったんだろう!?」

日「ちょっ……耳元で叫ばないで下さいや」

和「……誰に言ってんの、誰に」

斑「ほらまた返事した!!」

日「ああ失礼。ただの耳鳴りでさぁね」

和「なんか特定の誰かに向けて言うような口調だったけど」

斑「私に言ったんだよね?ね!?」

日「何言ってんですかい?そんなことありませんや」

和「……日織、どこ見て言ってんの。しかもイイ笑顔で」

斑「ほら私に言ってるじゃないか!!」

日「ああ、そこにいる蚊に向かって言ったんでさぁ」

斑「蚊!?」

和「確かに蚊はいるけど……日織、大丈夫?いろんな意味で」

日「……も、申し訳ねぇ……。神経がささくれだってるせいで、自分でも何が何だか……くっ!」

斑「こら!何同情引く演技をしてるのかね君は!?」

和「!!……そ、そうだよね。人が死んでるんだもんね……それが当たり前だよ。……ゴメン、変な事言っちゃって」

斑「騙されてる!!騙されてるよ君!!」

日「そう言って頂けると……ありがとうございます」

斑「殊勝になる相手が違うだろう!?」

和「いいよ、気にしないで。……あ、麺大丈夫?」

日「ああ、茹で上がりましたね。それじゃあ食いましょう」

斑「おい、こら、君」

和「娯楽室でいいかな」

日「どこでも。余計なものがいなければ」

斑「余計!?邪魔者扱い!?」

和「今何か言っ……いや何でもない……(相当疲れてるんだな、日織)」

日「ささ、娯楽室にゴー!ですぜ」

斑「こら、待ちたまえよ、君ぃーーーー!!」

バタン。


日織編、完。


椿編へ

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ