★交流の釜:宝物の碗
□ウサみみーさん探偵局
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【ウサみみーさん探偵局】
その珍妙な事件は、よく晴れた仏滅の日に起こった…
「三笠さん、おはようござ……」
探偵事務所の扉を開け、事務所の主の姿を見た途端に和は言葉を失った。
「一柳くん、おはようでござる」
「いや、いやいやいや!!そんな古風な挨拶しようとしたんじゃありません!ちょ、『ソレ』どうしたんです三笠さん?!」
和は震える手で三笠を―――――正確には彼の頭を指していた。
「ん?」
『ソレ』の意味が分からなかったらしく三笠は後ろを振り返る。そこにはA4サイズのカレンダーがかかっていた。
「ああ、猫川柳の特大カレンダーのことか?テレビで紹介されていたので気になって買ってしまった」
「違います!その頭に付いているモノは何ですか!!」
もう一度和は三笠の頭に付いたものを指差した。正確には頭から生え、顔の横にぺろんと垂れ下がっているモフモフの長い耳を…
「一柳くん、君は兎の耳というものを見たことがないのか?」
「意外そうな顔して驚かないでください!こっちの方がビックリですよ!!僕に猫耳付けるだけでは飽き足らず、今度は自分がウサ耳装備…一体あなたは何がしたいんですかぁ!?」
こんな愉快な人がこの探偵所の主…悲しいやら情けないやら…。込みあげる涙を手の甲で拭い、和は三笠のウサ耳に手を触れ軽く引っ張った。
「一柳くん、痛い」
「何言ってるんですか…作り物触って痛いなんてあるはずが…」
あれ?取れない?
「ひ、一柳くん、痛い!ちょ、マジで痛い!!」
「え?えぇ?何で?」
さらに力を込めるがウサ耳は取れない。
「痛い痛い、いったい!!やーーめーーてぇぇ!!!」
何回強く引っ張っても、三笠の頭からウサ耳が取れなかった。
「止めろと言っているだろう!」
ウサ耳ごと頭を押さえ、三笠は涙目で訴える。
「本物………なんですか……?」
「残念ながら本物だ」
当人はこの異常事態にも関わらずさして動揺してはいないようだ。モコモコのウサ耳はよほど触り心地が良いのか、その先端を先程からよく指でふにふに掴んでいじっている。
ただし
「これがニャンコの耳だったらもうヘブン状態なんだがな…」
この一点だけがご不満のようだ。
「でも、どうして?一体いつ生えてきたんですか?その強面に全くと言っていい程似合わないウサ耳は?」
げんなりしつつもとにかく聞いてみる。
「やはり君も猫耳の方が似合うと思うか?これでは【ニャンコ探偵局】ならぬ【ぴょんこ探偵局】になってしまう」
会話のキャッチボールがデッドボールに終わってしまった…。
「【レッドムーン探偵局】でしょ!!」
会話の最後のボテ球を拾いつつ、和は心の中で盛大なため息をつく。
(いけないいけない、三笠さんのペースに引き込まれたらお終いだ。落ち着いて、落ち着いて…)
和は深く息を吐きだすと、突然笑顔で顔を上げる。
「思っていませんよいいから質問に答えてくださいよ全くと言っていい程似合わないウサ耳付けているだけでは飽き足らず猫耳にも挑戦しようというふざけた思考をお持ちの三笠さん」
落ち着いてと念じながらも、落ち着ききれなかったらしい。笑顔で、しかも一息で言い切った和の周りには何らかの黒いオーラが漂っていた。
「…一柳くん、兎は寂しいと死ぬということを君たち知っているか?」
オーラよりも何よりも、和の言葉に傷ついたのかいい歳して泣きべそをかく三笠。
「三笠さん、窓の外から飛び降りるのはいいですが、ここ一階ですよ?」
和の制止(?)を振り切り、三笠は上半身を窓の外へ。