★交流の釜:宝物の碗

□幸せ者のプレゼント
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***


カチャリと引き寄せられた腕から音がする。


「え……?」
手首の部分には見覚えのある、シルバーの時計がはめられていた。大通りの時計屋さんで見かけてかっこいいなあなんて思ったんだけど、予算を考えると今はきついかなって……
「ええっ!?」
「何おかしな声出してるんだ。お前からプレゼントをもらうだけじゃ不公平だろうが」
「で、でも、なんで、僕が欲しがってるの知って……」
「俺が何をやって飯を食ってるのか知らないようだな」

そういえば、迷い猫を探してるのって趣味じゃなかったんだよなと、今更ながら思い出した。僕にとっては十分高価なものだけど、ここであまり遠慮しすぎると、逆に三笠さんの機嫌を損ないかねないし、何より。

「あの……ありがとうございます。大事にしますね」
「そうしてくれ」
引き寄せられたまま三笠さんの隣に腰をおろす。
「あのっ!やっぱりあれがプレゼントだと僕が納得いかないんで、もう一度頑張ってみます。とりあえず……ソバとかどうですか?」
「……お前がうつのか?」
「い、いえ、買ってきたやつで……今の時期なら年越しソバかなって。
あ!でも、日織なら作り方知ってるから……」
「買ってきたやつでいい」
言葉の途中で遮られた声が普段よりも熱を持っている気がして、急に心臓が跳ねた。
「これからもお前がいるならそれでいい」
顔が真っ赤になる前に唇をふさがれて、離されたときには何も考えられなくなっていた。
い、いつもみたいにこのまま流されちゃ駄目だ。
何か……何か言わないと……

「あっ、あのでも今日作ったやつも、教わった時にはもっとちゃんと出来てたんですよ」

その言葉を発した直後、三笠さんの様子が変わった気がした。
見た目にはほとんど変わってるようにはみえないけど、体感温度が急激に下がったというか……。僕にも先ほどまでとは違う焦りが心の中を伝っていた。

「教わった……というのは、日織にか」
「え……?は、はい。だって、料理教われる友達って日織ぐらいしかいませんし」
「ということは、お前が初めて作って、しかも上手くいったらしいケーキやチキンやドリアをあいつが先に食べたと言うことだな」
「え、いや、そういえば、その時は日織が殆ど作って、僕は殆ど見てるだけだった気も……」

三笠さんの様子が明らかにいつもと違ってきている。この展開は僕が一番避けたい雰囲気だ。三笠さんは無言で立ち上がると、玄関の所に置いてあった紙袋を手に取って、そのまま僕にそれを手渡した。

何だろう。すごく開けたくない……

「それは俺へのプレゼントの為に買ったんだ。まあ、今後の事も考えると丁度よかったな」

その言葉を受けて恐る恐る開けてみる。
中からはある意味予想通りのものが出てきた……胸元に猫の刺繍がついた白いエプロン。レースは控えめに肩と前掛けの部分にあって、背中でクロスする紐の部分にも白い糸で丁寧な猫の刺繍がしてある。
どこで見つけてきたんだ。これ。

「日織には見せたんだろう?エプロン姿」
「なっ……!だ、だって料理するんだから当たり前じゃないですか。日織もつけてましたし!」
「日織が見られて、恋人の俺が見られないのは不公平だ。今すぐつけて見せてくれ」
「その顔は絶対何か変な事を考えてるスケベオヤジの目です!」
「俺はその点については開き直った」
「開き直るなー!」

その後、僕に向けられた二度目のごちそうさまに、当分三笠さんには料理を作るもんかと堅く心に誓ったのだった。





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