★交流の釜:宝物の碗

□幸せ者のプレゼント
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【幸せ者のプレゼント】

「途中まではうまくいってると思ったんです……」

自宅に帰ってきて早々、目の前の光景に力無く言い訳した一柳和は、座ったままこちらと目を合わそうとはしなかった。

和の目の前にある小さな机の上には、平べったいケーキ(生クリームとイチゴがのってるのでたぶんそうだろう)と、焦げ目に自由を許したチキン、長めの深皿に盛りつけられている料理は何と言うんだったか。

「……このシチューライスはうまくできてるんじゃないか」
「それはドリアですっ!」
やっとこちらを向いた和がドリアのつもりだったんですとだんだん小さくなる声で呟いた。
その姿を見ながら、小さく息をはいて和と向かい合わせになるように料理の並んだテーブルの前に腰をおろす。

「よかったな」
「え……?」
「空腹は一番の調味料だ。俺は腹が減った」
「で、でも……」
「言っておくがお前に料理を頼んだ時点で味も見た目も期待してない」
「うっ」
「それとも中居のように、料理の持つイメージを根底から覆すような挑戦をやったと言うなら話は別だが」
「ざ、材料は普通です……」

重い視線を感じながらも、和の言うドリアを皿に取り分けて渡すと短いお礼の言葉が返ってくる。

「さっさと食うぞ。いただきます」
「いただきます……」

料理に口を運ぶ自分を緊張した顔で伺いながら、咀嚼中も何か言いたげにこちらに視線をよこす。

「何見てる。早く食え」
「だ、だって・・・美味しいですか?」
「大体お前が想像してる通りだ」
「じゃあ食べちゃ駄目ですっ!」
「……何を想像してるのかは知らんが、見た目通りの米とグラタンの様な味がしてるぞ」
不安げな顔のまま和が自分の皿に取り分けられたものを口に入れる。咀嚼を繰り返しながらだんだんと難しい顔になっていった。

「……やっぱりちゃんと食べられるもの、何か買ってきます」
「流石にこれだけ食えば腹いっぱいだ」
「いや、だからこれちっとも味しないですし、無理して食べなくてもいいですってば」
「馬鹿者。これは俺へのクリスマスプレゼントだろうが。返せと言われたって今更返せんからな」

いいからゆっくり食わせろと睨みつけると、それ以上は和も文句を言わず、再び食べ始めた。
プレゼントの代わりに料理を作ってくれと頼んだとき、目を丸くして驚いていたのを思い出す。メニューは任せると言っていたが、クリスマスに合わせた料理を作ったようだ。
膨らまなかったというスポンジも、変な物が入ってない分食えない味ではなかったし、下味がよくついていた分、皮をはずしたチキンは美味しかった。

机の上のものを一通り片づけ終わると、和が席を立ち台所で熱いお茶を煎れる。
実家でよく飲んでいた茶葉らしく、和が自分の家によく来るようになってからは常備しているものでもある。

「どうぞ」
「ありがとう」
「いえ、ついでですし」
「料理の事だ。ごちそうさま」
「あ!いえ・・・!やっぱりあんまり上手くできなくて」
「俺の理想にはかなり近かった」
「え!?」

家に帰ると和がいて、手作りの料理があって、クリスマスなんて祝えたりする。

「後は猫がいれば完璧なんだがな」

その言葉に吹き出しながらこちらを見た和の腕を急すぎない加減でこちらに引き寄せた。



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