★交流の釜:宝物の碗

□もしも三笠と日織が眼鏡とコンタクトを併用していたら?
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【もしも三笠と日織が眼鏡とコンタクトを併用していたら?】


 事務所の机に腰掛け、新聞を広げる三笠。それは朝の事務所で毎日見かける風景だが、その日は彼の印象がいつもと違っていた。

「あれ?三笠さんて眼鏡かけるんですね」

 そう、今日の三笠は眼鏡をかけて新聞を見ている。

「ああ、コンタクトを片方紛失してしまったので家で使っているのを持ってきた」

「え?家では眼鏡だったんですか?」

「外ではコンタクト、家では眼鏡派だ」




「統一はしないんですか?僕の姉は家でも外でもコンタクトですよ」

 和の言葉に三笠は大きくため息をついて窓の外を見る。

「あ、あの、三笠さん…」

 何かまずいことを聞いてしまったようだ。三笠はどこか悲しげな表情でゆっくりと振り返る。

「俺はどっちも選べない男なんだよ和君」

 和の戸惑いを無視し、俯くと額に手を当てて大げさに首を振る。

「眼鏡は鼻の部分と耳部分が痛くなる!」

(ああ、そういえばあの館で成瀬君が「眼鏡してると耳と鼻が痛くならね?」と言っていたっけ)

 眼鏡をかけていて鼻と耳にかかる部品が当たって痛くなるのは、かけ慣れていないせいかもしくは部品が歪んでいる可能性がある。

 三笠の顔を見てみると眼鏡の鼻の部分や耳のつるの部分に歪みは見られないので、どうやら前者の可能性が高そうだ。

「コンタクトは付けるまでが恐ろしい!」

 今度は机に両手をつくと、わなわなと全身を震わせた。

「何故コンタクトは中々付かないのだ!?指の先に乗せた瞬間落ちて姿を消すわ、運よく眼球まで持っていってもくっつく直前でまたロスト!」

 許せんっ!と拳を振り上げ机をガンガン叩きはじめた。

「三笠さん!机を壊さないでくださいっ!!」

「ソフトコンタクトは指に乗せるのも困難ときたものだ!乗せたと思ったら実は裏返し!そのまま付けてしまった時の激痛といったら!!」

 ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!と、怒りのボルテージをギュンギュン上げて叫びまくる。

「しかもコンタクトを眼球に付けるとき、人は無防備になるではないか!!その時、背後から誰かに襲われたら、もしくは地震が起こったら失明しかねない!!恐ろしい、実に恐ろしい!!!」

 今度は頭を抱えてうずくまり、急におびえだす。

「あの…そろそろ還ってきて下さい三笠さん。朝から何でそんなにテンションの上下が昨今の気温よりも上がり下がり激しいんですか?」

 いや、知らず知らずパンドラの箱開いてしまったのは僕ですけどね?でも何故眼鏡とコンタクトの話でここまで熱くなったり恐怖したりできるんですかこの人は…。

「おはようございます、和さん。…おや?三笠さんどうしたんでさぁ、朝っぱらからこの世の終わりみてぇな顔して」

「日織、お願い!三笠さんを何とかして!!」

 地獄に仏とはまさにこのこと。脳内カオスと化した三笠を止められるのは、彼とほぼ同等の変人である日織しかいない!

「はいはい和さん、落ち付いてくだせぇ。そんな涙目でしがみつかれたら何でもお願い聞いてあげたくなりますよ」

 泣きながら抱きついてきた和の頭を、落ち着かせるように優しく撫でる。が、日織の顔は萌え死に寸前の恍惚とした表情を浮かべていた。

「僕じゃ駄目なんだよ、お願い!早く三笠さんを止めて!」

 止めにうるうるの瞳で見上げられる。駄目だ、キュン死する!!!

「お、俺の欲望が止まらなくなりそうですよ和さん!」

「え?」

「いや、な、何でも。で、一体三笠さんはどうしたんです?」

 口から出る汁と鼻から出る赤い液体をさりげなく袖で拭う。

「実は…」

 日織の袖についた赤い液体が気になったが、とりあえず見なかったことにして三笠の件を説明した。

「なるほど、三笠さんは普段はコンタクト派で家では眼鏡派。でもかけ慣れていないところをみると本を読むときしか眼鏡じゃないという萌なお人だと」

「萌とかそういうのは分からないけど、とにかくそれで両方の怖い点を喋り出して自爆しちゃったみたい」



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