★交流の釜:宝物の碗

□三笠と和とバステト
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【三笠と和とバステト】


 ファミレスの窓から見つけた姿は、いつもとは少し違っていて。中に入りテーブルに近づき、和はおそるおそる声をかけた。
「……三笠、さん?」
「どうした、一柳君」
 驚く様子もなく本に眼を落としたまま、返事。
「何か用があるのか?」
「え? えーと…」
 あなたを見かけたので本人かどうか確かめに来ました、と言えば確実に小言が返ってくる。
「いや、すまん。ファミレスに来て洋服を見せてくださいということもないな。目的は一つだ」
「い、いえ、違うんです」
「…特殊嗜好の人間がメシを食う振りをしてその実、ということはあるだろうが…。君はその手の人種だったのか。白衣にもメイド服にも関心を見せ」
「ちっ、違いますってば!」
 三笠の中で新たな一柳和像を作られる前に否定した。
「否定したところで自分の心は偽れんぞ。まあとにかく席に着いたらどうだ」
 対面の空席を示され、順う。
「だから違うんです。僕はただ、」
 ウェイトレスに水を出される。
 なんとなく意識してしまい、あからさまに制服から眼を逸らした。
 ちゃっ、と。本を読む三笠の指が眼鏡のブリッジを押し上げる。手の影になった口許が、心なしか吊り上がっている。



「誤解です、三笠さんっ」
 ウェイトレスが立ち去って、顔を赤らめ再否定。
「そうか誤解か」
「ほ、本当に違うんです! 僕はただあなたが居たから声をかけに来ただけでっ」
 ふっ、と。コーヒーに手を伸ばした三笠の口が綻んだ。
「初めからそれを言え」
 険は無いが、眼鏡越しに鋭く射られて息を呑む。
「俺が本人だから良かったものの、これがもし他人の空似なら お前は間抜けな不審者だ」
「……気づいてたんじゃないですか」
 何かリアクションしてくれればいいのに。
「俺は本を読むのに忙しい。大体、眼鏡一つでわからんというのは目が節穴にも程があるぞ。その眼鏡、度数はきちんと合っているのか?」
「すみません。でも度数は合ってます」
 心を読まれ、和は曖昧に笑って誤魔化す。
「あの、本を読むとき眼鏡を掛けるんですか?」
「老眼鏡ではないぞ」
「言ってませんから」
「…眼鏡をした方が集中力が高まる。ような気がする」
 三笠がカップを置き、ページに眼を戻す。



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