★交流の釜:宝物の碗
□約束などなくても
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【約束などなくても】
「やれやれ…」
自分にもたれかかったまま寝息を立てている和の顔を見て思わず呟く。
今日は和と二人で『犬猫ペットショー』に出掛け、今は帰りの電車の中。この車両には偶然和と三笠の二人だけで、他には誰もいない。
「こうしていると、ただの少年なんだがな」
普段から相当幼い…いや高校生で十分に通用する程童顔の和だが、寝顔は更にあどけない。
小柄で童顔で、泣き虫の怖がり、だが彼は過去に起こった二つの事件を見事解決した名探偵なのだ。
こんな子供が?自分と違い本職でもないのに?
出会ったあの頃は嫉妬のような苛立ちを感じていたが、今は…
「三笠、さ…ん」
眠ったまま微笑んで自分の名を口にするこの少年が愛おしい。
彼には罪を犯した人間の事も赦し、その優しさゆえに自分の身を危険に晒す。臆病な性格だが、どんなに怖くても逃げだすようなことはしない。
今まで見てきたどんな探偵とも、物語で読んだ探偵とも彼は違う。
自分たちの命だけではなく、犯人の命もそして心をも救って見せた。
あんな事は 自分には無理だ。
「全く…君が羨ましい」
これほど優しく、そして誰かが守ってやらなければならないほど危うさをもつ探偵は初めてだ。
『あの人は強い人ですよ。でも、それ以上にもろい部分もあります。和さんは優しすぎますから…』
いつか日織が言った言葉を思い出した。
『約束したんです、和さんを守ると』
普段は何を考えているか分からない微笑みを浮かべてばかりのあいつが、あの時ばかりは真剣な顔をしていた。
「俺なら、約束などなくても」
君を守る
三笠は車両に誰もいないことをもう一度確認すると、眠っている和の頬にそっと口づけを落とした。