過去拍手『兄弟衝突』

□定番は守ってこそのものと知れ
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[拍手小話8]


本日、わたしは昨日までとは意味の異なる『朝日奈絵麻』へと名前を変えた。


雅臣さんと、指輪を交換し、これからの道を共に進むと誓い合う。

ホテルのチャペルで挙げた結婚式。

ブライダルプランで、昨日からホテルに泊まり込んでいるんだけど、昨夜は準備だ最終チェックだキョーダイたちからの未婚最後の挨拶だの、とにかく忙しかった。
(実際はもう婚姻届は出してるから、既に既婚なんだけどね)

今晩わたしたち新婚夫婦はもう一泊、このホテルに泊まるコースになっている。


やっと一息つけるのだと、ホッとする。


二次会も終え、ホテルに戻ってきたスーツ姿の雅臣さんと、透け感のあるショールと膝丈の光沢のある素材のドレスのわたしは、エレベーターで宿泊する部屋のあるフロアーへ向かっている。


「ちょっと疲れたね。大丈夫?」

雅臣さんがわたしの顔を覗き込んで尋ねる。


「大丈夫です!確かに疲れましたけど、まだまだ元気です!」


若いですから♪と冗談っぽく言うと、雅臣さんは、おじさんだけど僕もまだまだ元気です♪、と返してくれる。

おじさんだなんて思ってはいないけど、それが雅臣さん流の冗談だと分かるので、ふふっ、と二人で笑い合う。

その時、エレベーターが目的のフロアーに着く。

オープンボタンを押してくれている雅臣さんに促され、わたしは先にエレベーターを降りる。
次いで降りた雅臣さんと、昨夜も泊まった部屋へと足を進める。


部屋のドアの前。
雅臣さんがカードキーを持っているので開けてくれるのを待つ。


が、何故かドアノブを見つめたまま、雅臣さんは鍵を開けようとしない。


「雅臣さん、どうかしたんですか?」


すると、雅臣さんは少し困った表情を浮かべた。


「実はね、ホテルの人から新婚さんの定番行事ってのを聞いたんだけど」
「新婚さんの定番、行事…?」


聞き慣れない言葉だ。
このホテルには何かそういったものがあっただろうか、と以前見たパンフレットを思い返す。


「それがね、『結婚式を挙げたら、最初の日は花嫁さんを抱き上げて入りましょう』ってものらしいんだ」
「抱き上げて、って…所謂、そのぅ…」
「お姫様抱っこ、って言うそうだね。あれをして入るのが新婚さんだ、って言われたんだけど…」


お姫様抱っこの単語にわたしが一人で紅くなっていると、雅臣さんはまたドアノブに視線を送る。


「ここで君を抱っこしたら、ドアが開けられないなぁ、って思って…どうにか上手く開ける方法はないかと考えてみたんだけど…」


浮かばないんだよね、と困り顔。

からかわれたのか、本当に新婚夫婦にそんな定番があるのかは知らないけれど、真剣に悩んでいる様子の雅臣さんが可愛くて、嬉しくなってくる。


「雅臣さん、普通にお部屋に入りましょう?抱っこは、危ないならあえてしなくても問題はないと思いますし…」
「そう?君がいいなら、じゃあ普通に入ろうか?」


困り顔を解いた雅臣さんはにこっと笑うと、カードキーを通してドアを開けて、わたしを先に部屋に入れてくれた。



この、ブライダルプランのお部屋はちょっと珍しい作りになっている。
ドアを開けると短いが幅は広めの通路になっていて、右側にはお手洗いと、結構広いバスルームが別々にある。

通路を進むと、寝室が分かれてはいないワンルーム型の室内に、手前にソファーセットやテレビ等があり、奥にはキングサイズのベッドがかなりの存在感を表している。

通路から部屋側に移る辺りで、ソファー前のガラステーブルに、ホテル側からのお祝いのシャンパンが置かれているのが目に入った。

そうだった、そんなサービスもプランには含まれていたと思い出し、雅臣さんに伝えようと振り向くと、


「あ、そうか」


と雅臣さんが何やら合点がいった、という感じに呟いた。


雅臣さんもサービスを思い出したのかな?と思っていると、わたしに近付いた雅臣さんは、突然身を屈めて――


「よいしょっ」



と、わたしの膝裏と背に手を回して、抱き上げた――!


「ま、雅臣さんっ!だっ、抱っこはいいって…っ!」


降りようとするけど、身体はしっかり抱え込まれて、無理しなければ動けない状態だった。


「僕はしたかったんだけど…君は嫌?」


至近距離で尋ねる雅臣さんに、勿論そんな事は思わない私は答える。


「イヤなんかじゃ、ない、です…」


「良かった」



わたしを抱き上げたまま歩き出す雅臣さん。


サービスのシャンパンはあっさり素通りし、そのまま奥へ――


「ま、雅臣さん?」


ぽすっと柔らかく背中から降ろされる。

辿り着いた先は、大きなベッドの上。


「うん、これでよし」


ニッコリ笑うと、再び「よいしょ」と声をかけながら、わたしの上に覆い被さる。



「あ、あの…雅臣さん…なにを…?」

「ホテルの人は別に『部屋に入る時』とは言わなかったなぁ、と思ってね」


わたしの身体の上に馬乗りになった雅臣さんは、上体を倒し、顔を近付ける。


「…抱っこしながら入るのは…『ベッド』でもいいかなぁって」


そう言って、ちゅっ、とわたしの唇に軽くキスをする。


「べッ、ベッドに入るって…っ!」


その『入る』の意味するところを察して、わたしの顔が真っ赤に染まる。


「だって…この準備期間はずっとおあずけだったんだし…ねぇ、駄目かな?」


そしてまたキスをする。


「んっ…雅臣さん…」


「それに今夜は、ほら、あれだから」


「…あれ…?」


優しく微笑みながら、首を傾げるわたしのショールをスルッと奪い取り、そのままベッドの下に落とす。


「結婚して初めての…『初夜』っていう夜だよ」


そして、ショールがなくなり、さらけ出された首筋にもキスをする。


「あっ…雅臣さ…」


「『夫婦』になってもよろしくね」


そう囁くと、今度は唇を割って、深い深いキスをくれた。



…よろしく、って、どういう意味でのよろしく…?





『新婚の定番行事』とやらもクリアしたらしいわたしたち。


『夫婦』になった『初めての夜』は、そのわたしたちにも特別なものになった。



…これからも、よろしくお願いします、雅臣さん♪




〜終わり〜


そーいや、雅兄のSSってED後の話じゃなかったなぁと思って、結婚式後を書いてみました。

わたしの中では雅兄はロールキャベツ。

決して草食ではありません。


拍手有難うございましたm(__)m


2014/02/15
藤堂市松 拝


〜拍手移動後の後書き〜


公開時はタイトル付け忘れてました(^ー^;A

個人的にはいちいち「よいしょ」と言うのが雅兄っぽいかな、とか思ったりしてます。


やっぱりPPだと、EDとしてのまとまりは雅兄が一番かなぁと思いますね。
(ただし私は風斗が好きなんですが(笑))


お読み頂き、有難うございましたm(__)m


2014/02/27
藤堂市松 拝

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