過去拍手『兄弟衝突』
□ランキングバトル
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[拍手小話5]
出掛けようとした矢先、突如営業部に顔を出した社長に呼び止められた。
「朝日奈くん、君、広報に移らんかね?」
「はぁ、広報ですか?」
広報部と今いる営業部は、タッグを組んでいるような関係の部署だ。
広報がCMやポスター等の宣伝、告知を担当する、そもそもの商品アピールの部であるのに対し、営業はその広報が作り上げた宣伝材料等を使って、雑誌等のメディアや販売店に売り込みに行く。
業務内容も理解している先なので、移動と言われても、別段仕事に支障が出る訳ではない。
「しかし社長、何故突然そのようなお話を?」
社長は、いきなり一部署にふらっと現れたりする人なので、わりとフランクな会話でも許してくれる、と言うかむしろフランクでないと怒られたりもする、変わった人物だ。
「いやね、朝日奈くんはうちの社員の中でも、かなりゲームが上手いらしいじゃない?」
会社には、現行の全てのゲーム機やパソコンを集めた遊戯室という部屋がある。
営業も広報も、またサポート等他の部署も、
「自分のところのゲームをやらずして、勧められるのか売り込めるのか解説出来るのか!?」
と言う社長の信念の元、プレイが半強制である為に存在する部屋だ。
そこに、遊戯室内ランキング、と言うゲームスコア表がある(企画部による、模造紙への手書きと言うアナログなものだ)。
中にはミスターXだの仮名でランキング表に名を連ねている奴もいる。
ちなみにスコアは自己申告制だ。例え誤魔化したって、プレイ履歴を調べりゃすぐ分かるので誤魔化す奴もいない。
俺はここしばらくの間、そのランキングのトップを独占し続けていた。
「まぁ一応…やり込んでますんで」
遊戯室でのプレイ
俺は心の中ではそれを
“特訓”
と呼んでいる。
元々、ゲームはやるし上手い方だったと思う。
だが、今は半端に上手いのでは相手にならないのだ。
いや、上手くないと相手にしてもらえない、と言うべきか。
可愛い妹
兼
最愛の恋人に。
ゲーマーである彼女は、暇さえあればゲームをしている。
勿論学生だから勉強や、家事をしている間は抜いて、の暇な時間だが。
その彼女に
「棗さん、一緒にやりましょう♪」
とニッコリ笑いながら誘われたら、誰が断れようか。
しかも、付き合う前に、弟たちとのプレイを見学していた時に、
「侑介くんは参加しなくていいからガードしてて」
とか言われてるのを見ているので、自分もそう言われたら、と思うと、ただプレイするだけでいいとは思えない。
ようは、彼女に(ゲーム世界で)並走出来る実力が必要とされているのだ。
遊戯室は、その彼女には見つからずに“特訓”が出来る、最適な場所だった。