過去拍手『薄桜鬼』

□闇の中の真相
1ページ/1ページ

〜『真相は闇の中』の続きです〜

『闇の中の真相』


宵闇の時刻。
この漆黒の世界は、本来の彼の時間帯だ。
だが、いつもなら危険な諜報活動を行っている筈のこの時刻に、彼は珍しく屯所に姿を置いていた。

だが…。

情報を得るべく、単身敵陣へと忍び込む時よりももっと慎重で、微かな物音にすら気を配って屯所内を移動しているその状態は、誰かに見つかれば「怪しい」と見咎められる事間違いない姿でしかない。

やがて目的の場所に辿り着いたのか、音もなく障子を開けると、ある一室へと滑るように入って行った。


「…烝、さん…?」
布団に横になっていた千鶴が躰を起こそうとしたが、山崎はそれを制し、彼女を横たわらせた。
「具合はどうだ?千鶴君」
「はい、大分良いです」
「そうか…」
ほっとした様に息を吐き出し、山崎は千鶴の顔にかかった髪を払って額に触れる。
「体温が高くなっているな…辛くはないか?」
「大丈夫ですよ。ただちょっと時々気持ち悪くなる位で…何て事ありません」
薄い月明かりの中でより青白く見えるのに、それでも気丈に笑顔を見せる千鶴に、山崎は切なそうに眉根を寄せ、そのまま触れていた彼女の額に優しく口づけた。
「すまない…」
そのまま謝罪の言葉を口にする山崎に、
「謝らないで下さい。私も望んだ事です」
手を伸ばして山崎の頬に触れながら、千鶴は笑う。
「嬉しいんですよ私。だってもう一人じゃないんですから」
そう言ってもう一方の手で、布団の上から腹部に触れる。
その手に自分の手を重ね、握り締めて、山崎は告げる。
「…必ず守る…!」
「…はい!」
目尻に微かに光るものを滲ませながら嬉しそうに答える千鶴に、山崎は頬を寄せ、そして唇を重ねた…。




「そう言えば、胃の方はどうだ?」
今更思い出したのだとばかりに尋ねる。
「何ともありませんよ。確かにちょっと量は多かったけれど、別にあれ位は」
女の子は甘いものは入る場所が違うんですよ、とクスクス笑う。
「んーでも明日からお茶うけとかなくなっちゃうのかな?まぁしばらくは余り食べられなさそうですけど…」
明日からどうやって誤魔化そう、と思案顔の千鶴に、山崎は優しい笑顔を浮かべるとこう囁いた。
「甘いものが欲しくなったら俺が買ってくる。皆には…吐いてしまったのが恥ずかしいから、暫く食事は部屋で軽くにするとでも言っておけばいい」
「それで通るでしょうか…?」
「沖田さん辺りが食い付いてくるかも知れないが…俺が補佐するし、いざとなったら局長が使えるだろう」
確かに近藤さんならきっと女子の千鶴に気を使ってくれるだろう。
「近い内に解決策を出す。すまないが、それまで辛抱してくれるか?」
「はい、烝さんを信じて待っています!」


そして二人は再び口付けを交わすと、彼女を労る様に寄り添って布団に横になった。


まだまだ彼の時間帯。
全てを覆い隠す漆黒の闇。

宵闇が続く限り、真相は闇の中にしかない───。


〜終〜



山崎さん落ち〜。
この後は全く考えられません(苦笑)。
書くきっかけは総司に「僕ならそんな失敗はしない」って言わせたかっただけでした。

ありがとうございました!

2008/10/13 藤堂市松


〜追記〜

自分の携帯から“烝”の文字が出せず、拍手公開時は「山崎さん」と呼んでいた千鶴ですが、薄桜鬼のサイト『朧桜』の久遠琉依様から有り難くも文字を送っていただき、親しく呼ばせる事が出来ました!
久遠様、ありがとうございました!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ