薄桜鬼

□縁側日和
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あぁ、なんて良いお天気。

こんな日は縁側でのんびり日向ぼっこ。

うん、最高。


『縁側日和』


縁側に腰掛け、のんびりと空とお庭を眺めていると、平助君と原田さんが「千鶴、土産だぞ」なんて、お団子の包みを抱えてやって来た。
いつもご馳走になっていて申し訳ない気持ち半分、やっぱり甘いものが嬉しい気持ち半分。
永倉さんは巡察に出ているそうで残念。
私はお茶を煎れる為、手伝ってくれるという平助君と一緒に土間に向かった。


お湯を沸かしていると、
「お茶飲むの?僕も欲しいなぁ」
と、土間を覗き込みながら沖田さんが声をかけてきた。
「総司、団子あるぜ。食うか?」
「あ、やっぱり?千鶴ちゃんはともかく、平助がお茶うけなしにお茶を飲む筈ないなと思ったから声かけたんだけどね」
「確信犯かよ」
苦笑いする平助君だったけど、別に気を悪くした様子もなく、沖田さんの湯呑みも用意してくれた。
「おい千鶴〜」
そこに縁側に待たせていた筈の原田さんが現れた。
「どうかしましたか?」
尋ねると、一仕事終えた斎藤さんと縁側で出くわしたので、あいつの分も頼む、と返ってきた。


のんびり縁側は、かなり賑やかになりそうだ。



縁側で皆とお茶にお団子。

うん、これも最高。

「千鶴、ちゃんと食べてるか?」
隣に腰掛けた原田さんが聞いてきた。
「はい、ちゃんといただいてますよ。美味しいです!」
そんな原田さんはあまり食べていないんだけど、甘いものはそこまで好きではないから、お前が食べな、と勧めてくれる。
自分ではあまり食べないのに、買ってきてくれたんだと、やはり申し訳なさと嬉しさとが入り混じる。

「千鶴〜、ちゃっちゃと食えよ〜!じゃねぇと全部総司に食われちゃうぜ!」
笑いながら平助君が言うと、
「やだなぁ、いくら僕でも全部は食べないよ。全部は、ね」
微妙な言い回しで答える沖田さんは、すでにお団子の串を三本、器用に片手で掴んでいた。

原田さんとは逆に腰掛ける斎藤さんは、一人静かに湯呑みを口に運ぶ。
「どうですか?」と尋ねれば、「丁度良い」と簡潔ながらも斎藤さんらしい賛辞が返ってきて嬉しい。

「そーいや斎藤、先刻片付いたって仕事、何だったんだ?」
「大した物ではない。新入隊士の訓練の時刻や順序を組み立てただけだ。既に土方さんに提出してきた」
そこで挙げられた名前に、彼の人もお茶を飲むだろうかと考え、お伺いをたてようかと思ったところ、
「千鶴ちゃん、僕が聞いてくるよ」
そう言って、珍しく沖田さんが立ち上がった。
「珍しいな総司。あんたが土方さんの所に赴くとは」
斎藤さんもやや驚いている。勿論、原田さんと平助君も。
「やだな、皆僕を誤解してるよ」
あはは、と相変わらずの乾いた笑いをあげながら、お団子を持ったまま、沖田さんは土方さんの部屋に向かっていった。
「…雨、降らねぇといいけどな」
ボソッと呟いた原田さんと同じ様に、縁側に残された私達は揃って青空を仰ぎ見た。


それでも空は綺麗な青のまま。


しばし、まったりと過ごす。

しかし……遅い。


土方さんの所へ行った沖田さんが中々戻らない。
また二人で些細な(大抵は近藤さん絡みの)言い争いをしているのだろうか。

少々不安を感じていると、やがて沖田さんが向かった方向から、何やら人の怒声と騒々しい足音が迫ってきた。


「えーなになに?『春の草 五色までは 覚えけり』〜」
「てめぇっ!おいこら総司!返しやがれっ!」

相変わらず器用にお団子を片手で掴んだまま、更に器用に何やら帳面らしきものを開いて読み上げながら走ってくる沖田さんと。

その後を必死の、まさに鬼の形相で髪振り乱しながら追いかけてくる土方さん。


あれは…

「俳句?」
変わった句だと小首を傾げると、げっ!と奇妙なうめきをあげた原田さんが
「千鶴!あれは聞いちゃならねぇ!」
と、必死に私に釘を刺す。

すると、口をへの字に結んでいた平助君が、耐えられないとばかりに笑い声を響かせた。
「はははっ!相変わらず土方さんの俳句は訳わかんねーなー!まんまじゃん!!」

土方さんの俳句。


…あれ、土方さんが詠んだんだ…。


「総司っ!いい加減にしやがれっ!」
「俳句なんて詠んで聞かせて意味があるものでしょ〜?」
沖田さんは更に土方さんを煽り続けている。


「…あ〜、良い天気だなぁ〜」
「…そうだな。茶が美味い」

私の両隣は我関せず。

「…あの、お二人を止めなくていいんでしょうか…?」
「構わん」

斎藤さんはそう言い切ると、若干温くなったお茶をすすった。



見上げれば青い空。
縁側に降り注ぐのは暖かい陽射し。


後ろでは、まだ追いかけっこの土方さんと沖田さん。

それを見て、お団子食べながら笑ってる平助君。

そっぽ向いてお茶を飲む原田さんと斎藤さん。

その間に、私。



「ねぇ、豊玉さん♪」
「総司ぃっ!」



…うん、最高に最高!




〜終〜
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