連載『SISTERS CONTINGENCY』

□第5の事態 『始動』
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「んーーっ!気持ちいい!」


まだ冷たさの残る潮風が肌に心地いい。

ナイロンのブルゾンのジッパーを下げると、胸元からジュリ子がピョコンと顔を出す。

「ジュリ、大丈夫?寒くなかった?」

ぼくが尋ねるとジュリ子は肩に移動し、そこでプルプルも身を振って乱れた毛並みを整える。

『ワタクシは大丈夫、慣れてますから。ちぃこそ久々ですけど、問題なくて?』

「うん…どうなのかと思ったけど、大丈夫だった」

『…何かビミョウな回答ですわね』

「はは、気にしないで」


そう、本当にどうなのかと思ったけど…


乗れちゃったんだよね。


それも華麗に。


今、ぼくが跨いでいる黒と銀のツートーンの、


今日、届いたばかりのピカピカの、


ぼくの足となる、新しい相棒に――。




シマイたち全員と顔を合わせた土曜日が明け…


寝惚け眼のぼくは携帯のコール音で目を覚ました。


光さんと棗さんが帰ってからぼくが何をしたかと言うと…


もちろん、貰ったゲームの個人プレイルートのやりこみです。


決して、要さんや光さんの言いたいことが分からないからの現実逃避じゃないですよ?


…本当ですよ?


翌日が日曜日なのをいいことに、深夜(ほぼ早朝)までゲームをしていたぼくは相手が誰かも確認せずに、半分寝たまま電話に出た。


「はい…もしもし…?」

『やぁ麻央くん、おはよう』


…朝から耳が蕩けそうな色気のあるバリトンボイス。

この声には、聞き覚えが…おかしいな、わたしは知らないのに…ぼくは知ってる…?

そして、スマホの画面に示し出された名前を見る…


「…っ!よっ、美和さんっ!?」

『はい、お父さんだよ。起きたかな?』

「おっおはようございますっ!すみませんっ!」


電話の相手は、シマイたちの父親――朝日奈美和(よしかず)さんだった。


『いやいや、こちらこそ。朝早くからすまなかったね』

「いえ!ぼくが寝過ぎてただけで…母に何かありましたか?」

『いや、そうではないよ。…もしかして忘れてるのかな?』

「…え?」

『今日は君の“待ち人”が来る日だよ』

「“待ち人”…?」

『おやおや…会いたくはないのかな?君の新しい“相棒”に』


その時、またぼくの記憶がわたしの意識に流れ込んできた。


「……あ!あぁーっ!?」

『…思い出したみたいだね』


クスクスと優雅な笑い声が電話から響く。
しっかし、何だ、美和さんの声は。
フェロモン出過ぎで、朝から色々おかしくなりそう。

…ぼくの母さんは、よく平気で一緒にいられるな、この人と…。


美和さんにはすぐに向かうと伝え、通話を切る。


急いで支度をし、リビングに顔を出す。


「おはようございますっ!」

「おはようございます、麻央くん」

洗濯物を干す京花さんに昨日の朝の光景がフラッシュバック。
あー、昨日は本当にすみませんでした。


「京花さん、ぼく、出かけてきます」

「どこ行くの?」

テレビを観ていた侑李ちゃんが尋ねてくる。

「母さんとこだよ、ちょっと大事なものを引き取りにね」

「…え、昼はウチで食べないの?」

うーん、今が10時過ぎだから、多分昼ご飯の時間には戻れないよね。

「うん、多分。帰りはもう少し後になると思う」


すると侑李ちゃんは凄ーくイヤそうな顔を浮かべる。


「マジで?」

「マジで」

「昼ご飯、昨日の残りの、なんだけど」

「あーうん、残ってたね、ビーフシチュー」

「…あのスプラッタで平然としてたアンタが食べないで、誰が消費すんのよーっ!?」


…本当にお肉食べられなくなったの…?


えーと…


「任せた!」


勝手に侑李ちゃんに押し付け、ぼくはリビングを飛び出した。
後ろから「ホントにどこがフェミニストーっ!?」って叫びが聞こえたけど…


さぁ?ぼくも知りません?
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