BROTHERS CONFLICT
□Fan Call
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「じゃあ、姉さん、コレ持ってきて使ってよね」
風斗は事務所のロゴが入ったショッパーを絵麻に差し出す。
「なに、コレ?」
「中、見れば分かるから」
ビニール独特の音を鳴らしながら、袋の口を開けて、中を覗く。
「ん?」
中身を取り出して、ベッドの上に広げる。
「風斗くんが…でかでかだね」
「…なにその感想、ひどくない?」
ベッドには、風斗の顔写真が表に、裏には大きく名前が書かれたビッグサイズのウチワと、彼のイメージカラーとされている黄色のペンライト。
しかもペンライトは、可愛らしく☆型だ。
「今度のツアーの最新グッズだよ。来る時はそれ持ってきてよね」
「えっ?コレ持って?」
「そ。だって最前列のクセに『わたしはファンじゃなくて〜』みたいなノリされても困るしさ」
「えっ!?また最前列なの!?」
ビクッと身体が引きぎみになる絵麻。
「なに?イヤなの?最前なんてそうそう取れないんだよ?僕の姿を間近で観たいとか思わないワケ!?」
正直、身内用でも最前列を抑えるのは厳しかったりする。
けれど、自分も彼女に格好良いところを見せたいのと、自分をキラキラした瞳で見つめる彼女の姿も捉えたい、という思いから、かなり無理を押し通してチケットを確保しているのだ。
「近いのは嬉しいんだけど…」
「だけど?」
「…ファンの子に悪いなって…」
絵麻の言葉に一瞬言葉が詰まる。
確かにそれは事実だ。
ファンの子たちはチケットをお金を出して買い、自分たちを応援してくれているから。
けれど、それでも風斗は彼女にそこにいて欲しかった。
「…分かってる。でも僕は、僕の一番を絵麻に観てもらいたい。絵麻がちゃんと観てくれないなら意味なんてない」
「風斗くん…」
「ファンの子たちには最高のパフォーマンスを贈る。だから!…だから、絵麻も観に来て」
「あ…」
「僕を、観に、来て?」
「……うん」
少々恥ずかしい言葉だったが、絵麻が頷いてくれた事に心の中でホッと息をつく。
「じゃあ、来る時はソレね、絶対だからね」
「ペンライトと…ウチワ?」
「そ♪コンサートの基本アイテム。あ、ウチワは胸の位置ね。顔より上に上げるのは禁止」
「え?なんで?」
絵麻が不思議そうな顔をする。
「後ろの人の視界を遮っちゃうから」
アイドルのコンサート独自のマナーだから、あまり来ることのない人間には、確かに馴染みのないルールではある。
「あ、なるほど…ならさ、恥ずかしいし、ウチワ持たなくてもいいんじゃ…?」
「恥ずかしいってなにさ!?」
絵麻の提案に、風斗は即却下の声を上げる。
「ウチワもアイドルライヴ必須の神器なの!それはオフィシャルグッズだけど、自分で手作りしてくる子もいるぐらいなんだよ?」
「ウチワを手作り?」
「うん。文字を切り抜いて貼り付けたり、周りをモールでキラキラくるんだり…あと、クリスマスツリーの電飾を巻いてチカチカさせてる子もいた」
「凄く…凝るんだね…」
アイドルファンの熱意を知り、絵麻がまた少々引いている。
「そうだね、ウチワはアピールアイテムだからさ」
アピール、と言う単語に、絵麻が首を傾げる。
「ウチワには、好きな相手の名前以外にメッセージを書いたりする子もいるんだ」
「メッセージ?」
「よくあるのは『ピースして』『手を振って』『ウィンクして』とかかな。あとは『愛してる』なんてのもあるよ」
「へぇ…」
絵麻は普通に感心した様子。
「ま、いちいちそれには反応は返したりはしないんだけど」
「冷たいんだ」
「キリないでしょ。エイチなんかは結構マメに返してるけど」
そして、改めてペンライトとウチワを絵麻の腕に押し付ける。
「絵麻には自作なんて期待してないから、ちゃんとソレを持ってきて構えてればいいの!」
絶対だからね!
そう念を押す風斗の言葉の勢いに押され、絵麻は一応頷き、そして再び手の中のウチワに視線を落とす。
そこには、これでもか!と言うくらいのアイドルスマイルを浮かべた風斗が写っていた――。
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