「おいっ、押すなって!見つかんだろ!」
「だあってこっからじゃ見えねーんだもーん!」
「田島声でかいって」
「俺、緊張したら腹痛くなってきた…」
「おまっ…だったらトイレ行けよ!」
「阿部シィッ!」


ある昼下がり。体育祭が真近に迫ったそんなある日、じいっと廊下の角から先を見つめている怪しい人影があった。

「ほんとマジで頼む!一生のお願い!俺らに力貸して!」

目線の先には陸上部員から物凄い勢いで言い寄られている西広がいた。どうやら部内で怪我人が出たため、体育祭のリレー出場者が不足しているらしかった。

「しっかしあいつらよく西広が元陸部だって知ってんな」
「西広有名だったらしいよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。県大会は当たり前クラスだったらしい」
「オ、レも、クラスの人、が、西広くんの話、してたの、聞いたっ」
「マジか………」

部の中でも、西広は飛び抜けて速かった。俊足と言われる泉でさえ、50メートル走ともなれば西広には適わない。うちの部で西広の右に出る者はいなかった。しかし学校規模で考えてもそうそういないことが予想できる。なんせ、足に自信のある陸上部があんな風になって勧誘してるんだ。つまりはそういうことだろう。そんな状況に当の西広は少々困りながらも、やっぱり良心的なんだ。大分考えてから「わかったよ、」と返事をした。
「「「えっ?!」」」
それを聞いた野球部はさあ大変だった。

「ど、どーしよ!西広おっけーしちゃったよ!!」
「西広リレーのメンバー入ってるか?!」
「あったり前じゃん!アンカーだよアンカー!」
「でもなんで自分もこっちで出んのに承諾してんだよ」

すると西広は頭を下げまくって感謝する陸上部員に付け足した。

「そのかわり、俺も野球部でリレー出る予定だったんだ。だからまずは野球部のみんなに事情を説明して、代走たててもらえるように頼んでみるよ。それがうまくいったらってことでいい?」
西広の提案にうんうんと頷く陸上部。

「そーいうことか」
「西広だもんな、その辺はちゃんと考えてるよね。………でも」
「なんとなくやだな」
「おう。なんか西広捕られるみてー」

全員考えたことは同じだった。
「……どうする」
「でも西広だって複雑だったと思うよ。陸上部だって怪我じゃしょうがないし」
「なにより西広のあの性格上断れないだろ」

「「「だよな………」」」


でも。

それでも代走をたてる気なんてこれっぽっちも起きなかった。

西広が速いからとかそういうんじゃなくて、うちの西広を捕られるのがどうしても我慢ならなかった。なにより『野球部』として走らなくなることがいやだった。

「花井い〜っ、俺やだよお!」
水谷が目を潤ませながらしがみついた。
「な、なんで俺っ?!」
「だって花井がキャプテンだろ」
「今それ関係ないだろ!」
「じゃあ花井は西広陸上部に捕られてもいーのかよ!」
「ちがっ、そういうわけじゃねーけど…」
「チームまとめんのもキャプテンの仕事でしょっ!」
「〜っ!わあったよ!!俺がいやあいんだろっ!」
「うんっ!しっかりね!」
「ガツンと言ってやれよ」


続きます^^







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