短編

□Happy Birthday K66!!
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本日はケロロの誕生日だ。

誕生会には皆、思い思いのプレゼントを用意してケロロの元へ集まっていた。
その大半がケロロが好みを熟知したものを持ってくる。
それはたとえばガンプラだったり、アニメDVDだったりと、いずれも外れなしのプレゼントだった。

あげるプレゼントに迷わないパターンがケロロだと思う。
普段から好きなものが分かりやすいといえばいいのだろうか。
そこそこ限定品だったりレアなものを与えれば喜ぶし、なんだったらそれとなく聞いてしまうこともできる。

つまり何が言いたいかというと、誰が何を与えても普通にケロロは喜ぶだろう。
自分もみんなと同じように同じようなものをあげれば、間違いなくケロロは喜ぶんだろう。
それが……ネックだ。

出来れば私は、他の人と同じではない、特別なものを贈りたい。
特別でいて、ケロロも喜び、空気を読んだ、気の利いた贈り物を。
でもそれって何?
難しいなあ。

誕生会の食事があらかた終わり、タイミングに追いこまれた私は、ややしてプレゼントを渡してしまうことにした。

「…ケロロー」
「なんでありますか!」

居間にてソファーに座りテレビを見ていたケロロが、呼んだ瞬間ギュンと音が鳴る勢いでこちらを振り向いた。
そわそわと体を揺らす様は分かりやすい。
苦笑を零し、私はケロロにそれを渡した。

「誕生日、おめでとう」
「あああありがとうであります!うおおおおおお!」

震えて悶えながら、ケロロはプレゼントを受け取りぎゅっと抱きしめている。
彼の輝く笑顔が私を癒す。
だけど、肝心の中身は気に入ってくれるだろうか。

「開けてみていいでありますか!」
「もちろん」
「ヤフー!うおおお自分の短い指がもどかしいふぉおおおお!」
「落ち着かないわねー」

横から呆れた顔で覗き込む夏美さんが現れた。
丁寧かつ迅速に包装を剥がそうとするケロロの顔は相当切羽詰っている。
そこまで必死になるようなプレゼントではないんだけど…大丈夫かな…。

「うおおお!これは…!」
「なにこれ?ペンキ?」
「ラッカー塗料であります!こっちはアクリル、エナメルも…!こんなにたくさんいいんでありますか!」
「いいよいいよ、貰って。プレゼントだからね」

私はケロロにプラモデル用の塗料をプレゼントに選んだ。
塗料のことはよく分からなかったので、とりあえず高価そうなものを手当たり次第に買ってみた。
でも、これ以外にケロロの喜びそうな特別なものを思いつかなかった。
ガンプラは貰ってしまっているだろうから、逆転の発想で塗料にしてみた。

「ありがとうであります!ありがとうであります!感謝カンゲキ雨嵐…!女神…!プラモデルの女神様であります!」
「なにそれ微妙ねえ」

夏美さんはやっぱり呆れていたけど、私は嬉しかった。
ああ、やっぱりこっちあげてよかった。
血迷ってあっちの方あげてたら火傷するところだった…。

「あら?こっちの箱は…?」
「? 誰のでありましょう」

ってうおおおおおおい!?!?!?
『あっち』のプレゼントが発見されとるぅうううーーーー!

「ちょ、だめ!それはだめ!」
「え?名無美ちゃんの?なんで?」
「なんでも!」
「めちゃくちゃ慌ててるじゃないでありますか、珍しい」
「なんでもいいからとにかく見ちゃだめ!」
「と、言われると」
「見たくなるでありますなぁ」
「うぇぇぇええ」

夏美さんとケロロがまれに結託して悪い顔をしている。
私が奪い返す間もなく、夏美さんとケロロは包装を外し中身を取り出してしまった。
ああー顔から火が出るよーーー!あああー!

「赤い布…これ、サンタ服?」
「そのようでありますなぁ」
「繁々と見ないでください…」

夏美さんがサンタ服を取り出して掲げ、それを下からケロロが見上げている。
この場にそぐわない異物感に羞恥し、私は俯いて縮こまる。

「ごめん、なんで隠すか分からないんだけど」
「ゲロゲロウフフ…我輩は分かるでありますよ!きっとこれを着て我輩を祝ってくれる予定だったのでありましょう!」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「なんだよ違うのかよ!」
「てか、このサイズ、どっちかっていうとアンタのじゃない?ほら、ぴったり」
「あらほんとだー。…どういうこと?」
「…………」

夏美さんは広げたサンタ服をケロロに充てている。
疑問を顔に張り付けて二人がこちらを見てくるものだから、もはや説明しないわけにもいかなくなった。

「それは…プランBです」
「「プランB?」」
「何をあげたらケロロは喜ぶのか考えて、無難か冒険かで悩んで…サンタ服が、冒険のプレゼントのほうで。
趣味で作ったしあちこち失敗してるしそもそもこれあげて喜ぶの私だよなって思って結局塗料あげた…んだけど……それもいる?」
「貰うでありますよ!もちろん!ご迷惑でなければ!」

恐る恐る聞いてみたが、ケロロは力んで吠える。
私はびっくりして、同時に照れくささから逃げ出したくなった。

「名無美殿からのプレゼントなら、なんだって嬉しいでありますよ」

その一言に、私の脳からはもう、悩みもなにもすべてが吹っ飛んだ。
やっぱり、ケロロってすごいな。

「…ありがと」
「お礼を言うのは我輩でありますよ!…っと、ちょっと待ってるであります!」

ケロロはサンタ服を持って居間から飛び出していった。
まさか。
数分も立たないうちに戻ってきたケロロは、私の予想通りの恰好をしていた。

「じゃっじゃーん!フライングサンタであります!ゲーロゲロゲロ!」
「あら、なによボケガエルのくせに似合うじゃない」
「悪い子はいねぇかぁぁああ!良い子にプレゼントを!悪い子には侵略だぞ!うぉーっほっほっほ!」
「なんですって?」
「すいませんウソです出来心です冗談です信じてください」

ケロロが私の作ったサンタ服を着ている。
よかったサイズ合ってたみたい。ていうか、すごい似合ってる。可愛い。可愛すぎる。可愛い。可愛いな。どこを切りとっても可愛い。とってもとっても可愛い。清い。尊い。可愛すぎて居た堪れない。ヤバい可愛い。可愛すぎてつらい。かわ…。

「ちょ、ちょっと名無美殿?もしもーし!我輩が見えてるでありますかー?」
「みえてる。やばい。はんぱない。これはひどい。いや、ひどくない、でも…ひどい」
「な、夏美ドノ…これはいったい…」
「いや、見ての通りでしょ。滅茶苦茶嬉しそうでよかったじゃない」
「えっ…ゲロ…そ、そんなに見ないでよはずかちい!」
「うわぁぁ…やばぃぃ…」

殺人的に可愛いケロロに私は興奮を抑えるのにいっぱいいっぱいになった。
ケロロもケロロで恥ずかしそうにしててそれがまたぐっとくる。

「あの…そろそろ我輩着替えようかなーなんて…」
「待ってせめてこの眼に焼き付けてから」
「どうしたのそのガンギマリの目!限界化しすぎ!いつもの冷静な優しい名無美殿に戻ってよ!」
「とか言っても本当はまんざらでもないんじゃないの〜?」
「夏美殿!他人事だと思ってにやにや笑って!」

ケロロの悩殺サンタ姿をたっぷり堪能した私はその後、ちゃっかり写真にも納めて日向家を去った。
あれ?今日って何の日だっけ。私のご褒美デーだっけ。いや違うケロロの誕生日じゃん。忘れてないけど忘れてたわ。
祝うどころか迷惑かけちゃっただろうか。
……ま、いいか。
良いもの見れたし、ケロロも喜んでくれてたし、もっと仲良くなれた気がするから、これで良いことにしよう。

寝ても起きても瞼の裏に焼き付く、激萌えサンタを思い出し、私は暫く心躍る笑顔の日々を過ごした。





END.
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