短編

□World End
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周りは真赤。

補色の貴方は際立っていて、その真黒な瞳を私に注いでいた。

悲鳴が聞こえる。

彼と私の仲間が必死になって、凶悪の根源と戦っていた。

まるで世界から切り取られたかのように、彼と私は見つめあう。


きっと彼は、今、正気を失っている。

そして彼は、今、覚醒しているのだ。


黒々とした目で見下し、威厳溢れる荘厳な命令で、今にもこの場を収めようとしている。

だが、いつまでたっても彼は、無言だった。


彼と私の間に火柱が並んだ。

怯んだ私を見て、ふっと、その眼が笑う。



「その火を、飛び越えて来い」



ぞくりとするような低い声で、彼は言う。

その言葉の意味も、彼の思考さえも、なにもかも分からず私は躊躇する。

行動不能になった私に、彼は再度言った。



「来イ。」



無機質な、力ばかりの、暴力的なほど圧倒的な、一句。

殴られたかのような衝撃が脳に響き、ふらりと私の手足が動いた。

火。

を。

飛び越え。

る。

驚くほど体が軽くて、炎の熱気にむせ返りそうになる。

気付けば私は彼に言われたとおり、私達を隔てる炎を飛び越えていた。

彼は、よくやったと言わんばかりに力強く私を抱き寄せた。

炎以外の熱を久しぶりに感じる。



「お前が選べ。収束か、終息か」

「な、ぜ、私が…?」

「我輩にとって、どちらでもいい。それに、お前は火を飛び越えた」



どちらでもいい。

何故だか、どうでもいいと言っているように聞こえた。

彼の瞳が僅かに、不安そうに揺らめいている。


火を飛び越えたから、なんだというのか。

火を飛び越えてさえ、不安だというのか。


私は遮二無二彼へ腕を回し、一所懸命に乞うた。



「たいちょう、しゅうそくを…」

「――――いいだろう」



優しげな息が聞こえ、やっと声が届いたと思った。







 
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