短編

□いるんですか
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バリリ准尉が一時的に日向家へ来ていた。

表向きは小隊と中隊の交流も含めた共同会議らしい。

ケロロ小隊の雑用係の私には詳しい話はちょっとも聞かされない。

一旦会議も収束し、バリリ隊長は貸された客室に向かっていた。

通りかかったので、ちょうどいいと思って話しかける。

雑用係とはいえ、顔馴染みで向こうも私を覚えているようだった。

バリリは変わらずパリっとした誠実さと、勘違いの起こしそうな危なっかしい性格をしていた。

話していて楽しいな、と思う。

だがバリリはふと思い出したようにまわりを探している。

だれを捜しているかは、解っていた。

魔がさして口が勝手に動いていた。



「バリリさんは、好きな人いるんですか」

「えっ…」



ぎょっとしたように私を見ると、そわそわと、もじもじと、落ち着かなくなる。

居るんですか。

それとも。

要るんですか。

重ねた意味を彼は知らないだろう。

恥じらったようにそうなんです、と頷いたバリリを前に、私は激しく後悔した。

どうして聞いてしまったのか。

こうして聞いてしまった後どうしようか。

何故何を聞いてさらに後悔してみようか。

私が何も言えないことを知らないまま、バリリは照れかくしに訊いてもいないことを話す。



「想いはまだ届いてないのですが、諦めません!」



明るくそう言ってくる。

ずん、とえぐられるような痛みが胸に残った。

どうしようもなく、気持ちが下がり、ただただ哀しくなっていく。

やっと言えたのは碌でもない、情けない言葉だった。



「貴方は素敵な人ですよ」



激励の言葉は、私にとって何たる苦痛だろうか。

バリリは嬉しそうに笑った。

いつかはその笑顔も私に向けなくなるのだろう。



「ありがとう。貴女も素敵な人ですよ」



ああ、それ以上はやめてほしい。

残酷とはこういうことをいうのだろう。

必死に言い繕ってその場を後にする。

バリリは不思議そうに微笑んで手を振ってくれた。


彼から見えないところで、いくつもの涙を流した。

それでも彼が好きだった。








END.
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