短編

□そばかす
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短期ではあるが休暇が取れたとかで、幼馴染のタルルは私の家に来ていた。

休みなんだからゆっくりだらりとすればいいのに、タルルはさっきからダンベルを上げたり下げたりしてトレーニングをしている。

何これ…見栄?自分肉体作りしてるカコイイみたいな。

…違うってことは分かってるけど、なんか恥ずかしいな。

こんな近くで見るの、久しぶりだもん。

ちょっと見ないうちに逞しくなったなぁ。

雑誌を見るフリしてタルルを盗み見る私。

そういえば一緒に居れる休みなのに、会話らしい会話してないかも。

もっとらぶらぶしたいなぁ。でもタルルは嫌かもね。だって筋肉馬鹿っぽいし。

…会えない分甘えたい私だけど、タルルはどうなんだろう?



「……ちらちら見ないでほしいっす。気になるっす」

「あぁ、ごめん。がん見なら許してくれる?」

「余計気になるっすけど、それ…」



ふう、とダンベルを下ろして息をついたタルルは、此方をみて苦笑する。

格好良いなぁ。顔から雰囲気から身体から何から何までパーフェクトだよね。

そのそばかすさえなければきっとケロン軍でもモテモテなんだろうな。

…そういえばそばかす増えたな。

手入れとか必要だっけ?そばかすって。

気にしてないのかな。



「よっぽどオイラの顔が気になるみたいっすね」

「ききき気になってなんかないようん」

「……ぇ、リアルに顔が気になってたっすか。オイラの顔に何か付いてる?」



気になってないって言ったのに。

タルルはどこから取り出したのか手鏡を見て、その向こうに映る自分を確認した。

堪えきれず失笑するとタルルの顔が此方に向く。



「そばかすだよ、そばかす。増えたよね」

「はぁ?そばかす?そりゃ増えたかもしれないっすけど…そんなに気になるっすか?」

「タルルって年頃でしょうに…気にならないの?」



タルルは言われて初めて考えた、というような顔をする。

手鏡で頬を摩りながら考えている様子のタルルを見る限り、別に気になっていなかったようだ。

まぁ…そうだよね。筋肉馬鹿だもの。

本人が聞いたら呆れかえりそうだけど。

考えが纏まったのか、タルルの視線が私に戻る。



「…オイラは、強くなりたいっす。人気者になりたいし、ヒーローになりたい。そのためには強くならなきゃいけないっす。
確かに顔の美醜も目標には関係あるかもしれないっすけど、別に後回しでいい、そばかすなんて気にしてられない…って思ってたっすけど。そんなに気になるっすか?」



実にタルルらしい答えを聞いて、何故だか嬉しくなってくる。

ううん、と首をふった自分を見て、タルルは不思議そうに顔を傾げている。



「アンタが言うなら…その、ましに見える努力はするっすよ?」

「いいよ、そのままで」

「…でも…」

「私は、そばかすあってこそタルルだと思ってる。格好良いしね、そばかす」

「そばかすあってこそオイラって…なんなんっすか、もう…」



さっきまでの会話と私の結論が腑に落ちないのか、タルルは困ったような呆れたような微妙な笑いを零す。

どう説明したもんかな。今度は私が考える番のようだ。

タルルの気を持ちなおせて、尚且つ私の気持ちが伝わるような。

…でも、タルルは鋭いから私の気持ちなんてずっと前から知ってるんだろうな。



「タルルの立派な考えを聞けて、そばかすも格好良く見えてきたんだよ」

「…惚れなおしたってことっすか?」

「そうだね」



頷くと、なんとも嬉しそうにタルルは笑う。

その顔見て更に惚れなおしたなんて言ったら、タルルはどんな反応をするだろう?

トレーニングを再開する彼の傍ら、そんなことを想像するのが楽しかった。






END.
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