短編
□ガルルになって愛される話
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※『ケロロ軍曹』オタクの女性がガルル中尉に成り代わってケロロ小隊とガルル小隊から愛されて取り合いされる話です。名前変換はありません。―――――――――――――――
いつ観ても絶景かな、見渡す限りの星海は。
ガルル小隊の乗る宇宙船の司令室にて、前面の窓いっぱいに広がる宇宙を眺めて、息をつく。
コンソールに向かって座る隊員たちはそれぞれの仕事をこなしながら、私の方へ振り返った。
「隊長、どうしたっすか?ぼーっとして」
「さっきからタメイキしすぎなんだよネェ、プププ」
「虚ろ…」
「もしかしてお加減が悪いのですか?」
「あ…いや」
タルルが首を傾げ、トロロとゾルルが呆れたように重ね、プルルが心配そうに顔色を伺ってくる。
はっとして首を振ると、がたっと床を鳴らしてタルルが立ち上がって駆け寄ってきた。
「マジ具合悪いんだったらすぐ言ってくださいっす!働きすぎっすよ?昨日もよく寝れてないみたいだったし…」
「…大丈夫。すこしぼーっとしていただけだ」
「寝れてないのなんで知ってるのよタルル。ほら、隊長、顔を上げてください。…熱はないみたいだけど」
「本当に何もない。心配するな」
タルルに顔を覗き込まれて、プルルから額に手を当てられて熱を測られる。
心配そうに顔を顰めてくる隊員の優しさに引け目を感じ、私は苦笑を零した。
コンソールに向かっていたトロロと窓の外を見つめていたゾルルも何を思ったか、持ち場を離れてこちらへやってくる。
「ププ、タイチョーが休憩してくれたらボクたちも休めるシ!一緒に休憩してほしいナ♪」
「各自適宜取っていいんだぞ」
「…無理するな」
「う、うむ。有難う…」
明らかに懐いてくるトロロと気遣いが出来るゾルル。
嬉しいが、違和感と罪悪感をとても感じる。
彼らは私が背を丸めたり、はっきりと物を言わないだけで目を留める。
私がいつもと違うことを感じ、何かが変わっていることに気づいているからだ。
「…ほら。もうすぐ本軍に着く。気を引き締めて持ち場に戻るんだ」
手を軽く叩き、隊員たちに微笑みかけて号令を出す。
渋々ながら、隊長の私には逆らえないか、彼らは戻っていった。
普段強く賢く頼もしい彼らだが、こう見てみると幼く愛らしい印象も受ける。
決して口には出せない萌えと、物足りなさに不安定を感じずにはいられない。
足元を見れば、紫の足がすらりと伸びている。
「……」
だが私は、ガルルではない。
中身は別の人間なのだ。
ケロロ軍曹シリーズにハマり、私はその膨大なメディアやコンテンツに没頭する毎日を送っていた。
二次創作も何でも読み漁り、買い漁り、なんでもありの雑食の箱推しになり、毎日蛙の軍人、宇宙人を眺めては胸をときめかせていた。
その日、私は究極至高ともいえる二次創作作品に出会い、興奮冷めやらず恍惚としたまま眠りについた。
そして目覚めてみると、この有様だ。
フィクションでよく見た宇宙船の中、しかもケロロ軍曹シリーズに出てくるガルル小隊が目の前にいる。
極めつけは、どうやら小隊隊長ガルルに私が成り代わってしまったらしいということだから、もはや夢としか思えない。
私を隊長だと慕ってくる彼らと過ごす、可笑しいような愛おしいような掛けがえのない夢の時間。
ならばせめて出来るだけなりきろうと、本日まで流れに身を任せている。
今日は定例会議のため各小隊がケロン本軍に戻る日。
恐らくあのケロロ小隊も召集されていることだろう。
今まで以上に身振り素振りを気をつけなけなければいけない。
改めて前を向けば、天井に逆さで立っているゾルルと眼が合う。
「…どうかしたか?」
「…俺は別に」
意味深長に答え、目元を僅かに笑ませたゾルルに背筋が寒くなる。
頭が切れる彼には、どうにも悟られているような気がしてならない。