短編
□幕間
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私を助けてくれた天使のような人、プルルさん。
初めに会ったときは、髪型も髪色も服装も名前も奇抜で不思議半分、反感半分ではあったけど、話すうちにプルルさんにどんどん惹かれていくのが分かった。
優しくて誠実で、女性らしくて、子供っぽいところもある、綺麗で可愛い人。
絶望を感じていた私を励まして慰めて勇気付けてくれた、命の恩人。
あの人のことを考えるだけで、私は幸せな気持ちになれる。
職業は看護師だと言っていた。
プルルさんに看護されるなら一度大病大怪我患ってみたい気がするけど、彼女はきっと怒るだろうな。
仕事のせいで休みはあまり取れないらしい。
彼女の常の快活さは疲れを感じさせないが、なんとなく聞いている限りは苦労しているみたいだ。
プルルさんとは以降、友達になってもらえた。
よくお茶のみに行ったり、お家に来てくれる。
忙しいだろうに、暇を見つけては会いにきてくれるので少し自惚れてしまう。
今日も、プルルさんは洋菓子を片手に会いにきてくれた。
甘いものがお好きなようで、こうして一緒に食べるのも楽しみにしているらしいところも可愛いらしい。
他愛ない会話や何の変哲もない雰囲気の中で、プルルさんを見る。
おやつもお喋りも一通りすんで、彼女は今、私の部屋にあった本を読んでいた。
その、ふとした表情一つ一つを逃したくなくて、つい見てしまう。
「ん?ふふ…なーに?」
「あ、いえ…」
たまに気づかれてしまうけど、プルルさんは悩殺ものの穏やかな微笑みを向けてくれる。
まさに天使。
甘くて苦い、芳しいショコラのような雰囲気に、くらくらとする。
深い海のような、菫色の瞳に吸い込まれたくなる。
赤い唇に、悩ましく細められた目元に、流麗な眉、どれをとっても素敵だ。
その、桃色の髪も。
「…プルルさん、髪綺麗ですよね」
「そう?ありがとう」
「触ってみてもいいですか」
「いいわよ。どうぞ」
前から思っていたことを試しに訊くと、あっさり許してくれた。
プルルさんの背後に回りこんで膝立ちになり、ツインテールのひと房を持ち上げる。
透き通るような桃色の髪が、ぱらぱらと私の手のひらと指を滑り落ちていくのが気持ちいい。
「髪、ほどいて梳いてみてもいいですか?」
「ふふ、いいけど、どうしたの?そんなに気に入ったのかしら?」
「はい…プルルさん、の髪も好きです」
「そうなんだ」
彼女自身が好きだから、その髪ももれなく好きなのだけど、正直に言うのは躊躇われる。
プルルさんは愛らしく笑いながら、手元の本に再び目を向けていた。
私はプルルさんの髪に指を掛け、その結びをほどいて梳かした。
さらさらと広がった綺麗な桃色のカーテンを、思いつくままに梳いていく。
ここまで仲良くなれるとは思わなかった。
それも、プルルさんが優しくて、心の広い人だからだろう。
一度心を許せば大抵のことは許してくれるんじゃないかって逆に心配になってくる。
「っ…」
手櫛がプルルさんの耳を掠めたらしく、プルルさんはわずかに肩を震えさせた。
見逃すわけもなく、しかし見間違いではないかと己の目を疑って、さりげなくもう一往復させる。
やはりぴくり、と背筋を捩るのを見て、漏れそうになったため息を押し殺す。
プルルさんの顔を覗き見ると、わずかに頬が高潮していた。
「…プルルさん?」
「ぁ…ぇ?な、なにかしら?」
「…もしかして、耳、弱いんですか?」
「ッ!?」
ダメ押しに聞いてみると、プルルさんは顔を真っ赤にして絶句した。
まさか私から言われることだと思わなかったのだろう、自分の弱点に気づいていなかったのかもしれない、もしや言われた意味が分からないのか。
何にせよ照れたプルルさんが余す所なく可愛いくて、今一度その耳に指を伸ばす。
「や、やめて、くすぐったいのよ」
「くすぐりたいです」
「だ、だーめ!やめなさいったら!」
「プルルさん、あと一回だけ、お願いします」
「なによ一回って!だめったらだめ!」
両手で耳を押さえて私から後ずさりするプルルさん。
そんなに、顔を赤くして、逃げるくらい、恥ずかしくて嫌なんだ。
「…どうしたの、胸なんか押さえて。大丈夫?」
「大丈夫、です」
プルルさんが可愛すぎて、胸が締め付けられて大変なんて馬鹿正直に言えるわけもなかった。
END.