御題

□先程から居たでござるが
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「今日あの真面目くんいないの?」
日向家地下基地シミュレーションルームを通りがかると、またケロロ小隊は侵略を企んでなにやら活動中らしかった。
遠目に見るところ、あの青い人はいないようだったが。
「真面目くん…って誰でありますか?」
「ギロロ先輩ならあっちにいるですぅ」
「いや彼じゃなくて」
演習でもしているのか、あっち側にクルルとギロロが居て、こちら側にはケロロとタママがいた。
二人して首を傾げているので、私は重ねて訊く。
「あの、忍者みたいな」
「あードロロ?居なかったからいいの」
「居なかったからって…」
「いつものことなので大丈夫ですぅ」
「そうそう。どーせ参加してくれるか分かんないしねー」
「それでいいの?」
いいのいいの、と雑な相槌を返すケロロに少し呆れてしまう。
タママもお気楽に、それに同意するようにあはははと笑っていた。
なんだかもやもやする。

ケロロ小隊は五人で一個小隊だ。
侵略会議も作戦も、五人で取り掛かる。
はずなのに、ドロロはわりと、それからはぶられている気がする。
いじめではなく、ドロロが参加したがらないとか、居なかったからとか、いつもそんな理由だ。
小隊も小隊だし、ドロロもドロロだ。
それでいいのか。もっと、お互い気にかけて、一緒に居れるようにして、共同作業をするべきではないのか。
これも、宇宙人だからと、感覚がそもそも違うのだと納得しなければいけないのか。
可哀想だとか思っているわけでなくて、なんだか見ているとその空気感にどうしても、もやついてしまう。

私たち十代は、学校という社会の縮図のような狭い世界で、様々なしがらみ、ルール、カーストにおいて、必死に生きている。
皆と同じようにしたいし、普通で居たいし、除け者になりたくない、なんなら人気者になりたい、認められて、楽しく生きていたい。
だから余計に、ケロロ小隊のような、自由な距離感が気持ち悪いような、羨ましいような気がしてしまうのかもしれない。

ドロロは、相手に対してだけではなく、自分にも正直だ。
したくないことはしないし、大事だと思ったものを守り、たとえ敵対しようとも、疎外されようとも、それを貫徹している。

考えれば考えるほどあの真面目くんは、私とはそりが合わない。
正反対に感じてしまうから、更に目に付くのだろうか。

「…別に、どうだっていいけど。侵略者たちの仲間割れとか仲間外れとか」
「心外でありますなぁ、違うでありますよぉ」
所詮、私には関係ないし、なんなら地球の平和を脅かす侵略者たちの諍いなど、願うところだろう。
だがケロロは苦笑を漏らしながら肩を竦める。
「居ないときは居ないでいいんでありますよ」
「ドロロ先輩はいざってときは来てくれるですぅ」
「居るときに無視しちゃったらそりゃ悪いなってなるけどねー」
それはそうだが、それでいいのだろうか。
なんだかやっぱり納得出来ないが、なんと言っていいかも分からずに黙っていると、はぁーと感心したようにタママが息を零して私を見上げる。
「ドロロ先輩のことよく見てるんですねぇ。そんなに気にするなんて」
「…は?」
「我輩たちよりも心配してるなんて、ドロロも報われるでありますな」
「ち、違う、そんなんじゃ」
「どうだっていいって言うけど、ねぇ?」
「ナッチーやフッキーはそこんところ、もう突っ込まないのに…優しいですぅ〜」
優しい?
いや、優しいんじゃなくて、違う、気にしてないし、可哀想なんて思ってない、変だな可笑しいなってもやもやしてただけで、どうでもいいのに。
皆には、私が気にしているように見えてるの?
「私、ドロロのことなんか」
「ありがとうでござる」
息が止まりそうになった。
突然聞こえた、知っている声。
「ドロロじゃん」
「噂をすればですぅ」
声がした後ろを振り向くと、しゃきっとまっすぐに立つドロロが、まっすぐな瞳をこちらに向けていた。
そして、ふっと、緩むようにして微笑まれる。
「ッ…」
「嬉しいでござるよ。拙者のことを気にしてもらえるなんて」
「ち、ちが…っ」
「先程から居たでござるが、聞いていればまこと、貴殿はお優しいひとでござるな」
否定しようにも、畳み掛けるようにのたまい、ドロロはにこにこと嬉しそうに笑っている。
そんな、優しい、きらきらした顔でこっち見ないでほしい。
さっきまで自分は何を言っていただろうか、そんな喜ばれてしまうような、恥ずかしいことを言ってただろうか。
変な焦燥感がある。
勘違いさせないように、早く撤回し否定しなければいけないのに、思うように言葉が出てこない。
「違う、違う…!気にしてないってば!」
「無意識であれば尚素晴らしいでござるな」
「ちがーう!」
勝手気侭に前向きなドロロは、私の否を聞こうともしない。
珍しくほわほわ花なんか飛ばして嬉しそうにして…なんだか釈然としない。
「そんなムキになるですぅ?」
「天邪鬼でありますな」
「違うって…!」
「そんなところも可愛いでござるよ」
「う、ううう…」
何を言っても無駄な気がして唸ることしか出来ない。
さっきまで感じていた漠然とした淋しさは、霧散して跡形もなく消えていたが、それすらも今は少し腹立たしかった。





END.

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