短編
□ギロロとポッキー
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ポッキー&プリッツの日(11/11)記念夢
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「な、なんだこれは!?」
私の部屋に入るなり、視界に飛び込んできたモノが信じられないのか、ギロロが声を上げた。
おおげさだなぁ。
部屋の真ん中にあるローテーブルにうずたかく詰まれた、箱、箱、箱。
一度やってみたかったんだよね、これ。
「まさか…弾薬?!」
「なわけないじゃない」
日本にすむ一般女子高生が弾薬なんて持ってるわけない。
おいでおいで、とギロロを手招きする。
呼んどいてなんだけど、人選ミスだったかな…タママか、せめてケロロが良かったかも?
近くまでやってきたギロロは箱を凝視した。
「…菓子か?」
「そ。ポッキーだよ」
「…こんなに?」
「ポッキーの日だからね」
ポッキーの箱でタワー作るの、やってみたかったんだよね。
せっかくのポッキーの日だからやってみたけど、誰かとこの感動を分かちあいたかったし、一緒に仲良く食べたかったんだけど。
ギロロは見るからに呆れた顔をしている。
どうせ金の無駄遣いだの、太るだの、親父くさいことを考えているんだろう。
「ていうかポッキーの日って知ってる?」
「くだらん。知らんでもいいわ」
「11月11日は、お菓子のポッキーが並んでるように見えるからそう呼んでてね?」
「で!俺は何の為にここに呼ばれたのだ。これを見てほしかったのか?」
私の説明を遮って、ギロロは本題に入ろうとする。
なんかムカつくな?意地悪してやろうかな?
私はタワーの一番上のポッキーを開封し、一本取り出して見せた。
「ポッキーゲームしよ」
「は?」
「ポッキーゲーム。両端から食べて、折ったほうの負け」
「両端…は!?」
「私が負けたら今後侵略活動の邪魔はしないし、なんなら協力してあげる」
「はあああ!?」
あからさまに焦っているギロロ君…うむ。小気味いい。
ぷらぷらと挑発するようにポッキーを振ると、ギロロは顔を赤くして震えている。
やる?とダメ押しで囁くと、照れてるのか意気込んでるのか怖い顔で望む所だ、と聞こえた。
私はしゃがんでギロロに高さを合わせてから、ポッキーの端を咥える。
ギロロはおそるおそるもう片方の端を咥えた。
「……」
「……」
ぽきぽきぽきぽき、と、互いに無言で食べ進めていく。
目の前にはギロロの顔がいっぱいにあり、瞳孔の奥さえ覗けてしまう。
私の前髪がギロロの額をくすぐった。
赤い顔がさらに赤くなり、鼻息も荒くなっているようだ。
唇まで、あとすこし。
「…っ!ぬぁああ!」
ポキィッ
突如ギロロが顔を跳ね上げたので、衝撃でポッキーは折れてしまった。
耐え切れなかったか…残念。
「ち、近い!近すぎるぞ!」
「そういうゲームなんだけど」
「キッキキキキ…接触してしまうではないか!」
「キスしちゃうかもっていうスリリングを楽しむんじゃない」
ぽりぽりと残りのポッキーを咀嚼する私を見上げて、ギロロは絶句している。
「ま、今回はギロロの負けね」
「ぐっ…いや待て!このゲームはどうやって勝敗をつけるのだ!折ったほうもなにも、一本しかないのに!」
「気付いたか…チキンレースよね。チキったら負け」
「納得できるか!!もう一回!もう一回だ!!」
まだやりたいの?助平親父じゃないんだから…。
純粋に心外そうに憤慨するギロロにそんな事は言えず、もう一回だけ付き合ってあげたけど、やっぱりギロロが負けた。
さらに再戦を願われたが、こっちも敗北のリスクがあるし、虫が良すぎるので却下した。
はー面白かった。来年もまたやろう。ギロロをからかえて大満足だ。
「くそっ…来年こそ…覚えてろ」
ギロロが部屋から出て行くときに、なんか聞こえた気がしたけど聞こえなかったことにしよ。
私はタワーを見上げながら、残りのポッキーを食べ進めた。
END.