短編

□シグナルスルージャッジメントタイム
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お前が好きだ。
お前に優しくしたい。
本当は、できることならば。

お前は、俺の気持ちなど知らずに構ってくるだろう。
嬉しそうに名前を呼んで、猫なで声で甘えてきて、潤んだ瞳で見つめてくるだろう。

そうすると、どうだ、俺は。
お前のことを好きだ、なんて思う気持ちを忘れてしまう。
好かれているということに優越感やら感じ、嗜虐心や悪戯心をくすぐられてしまう。

そうすると、どうだ、俺は。
お前が好きだという、肝心にして初心的なことを、一度もお前に伝えられた試しが無い。

ああ、好きだ。
好きなんだ。
少しは黙って、真剣になって、俺にチャンスを与えてくれ。
お前ばかりが恋しているわけじゃないことを、教えてやりたい。



「ギロロ」
「あ、ああ…」
「珍しいね、ギロロから呼んでくれるなんて。大事な話?」

大事も大事だ。
一世一代の大告白。
俺は今まで、お前からこの気持ちに気付くように信号を送ってきたつもりだが、まるで気づいた様子はない。
お前はいつもどおり、俺に好意を露わにするだけだ。

「なになに、もしかしてこのつくあれですか」
「…なんのことだ」
「あれっ? 違うのか、そうかー」

残念そうに苦笑する。
このつくあれって…もしや告白のことか?
な、なんてあっさり看破してくるのだ…気付いていたのか?なら何故そんなふざけた態度のままなのだ?
もっと気が利くやつならなぁ、ここでしおらしく相手の言葉を待つものだ。
それをお前…地球の授業ではムードや空気を教えやしないのか。
…いや、気付いてないから、こんな態度なのか?それとも照れ隠しなのか?だとしたら相当可愛いぞ?

…いやいや、じゃなくて違うだろ、俺。
告白するんだろう、今日こそは。
こいつに送る信号や念やテレパシーというものが無力だというなら、言って伝えるしか方法はあるまい。
こいつの勘の悪さは常より承知済みだ、今に限ってだらだら考える必要は無いのだった。
今度こそは。

「実はな、俺はお前に伝えたいことがあって、だな…」
「うん。うん?うん」
「その、…あの…うむ…むむ」

ええい、言葉が出てきやしない!
どうしてだ、なぜだ、なんでこんなことが難しいんだ!
一言好きだと言えば済む話じゃないか、なにを迷っている。
男らしくないぞ俺!腹を決めろ俺!

「お、おおお俺は!」
「うん」
「お前のことが!」
「あ、夏美さんが呼んでる。ちょっと行ってくるね」
「あああああ!!!」

なぜこのタイミングで!置いていくのか!ふざけるな!
ナツミ…く、俺の新しい恋路を邪魔するのか…。
いや、ナツミは知ったことではないな…おそらく、多分…。



すぐ戻ってきたあいつの手には、ナツミに渡されたのか、ガラスの皿に載せられたスイカのカットがあった。
赤い実に黒い種、冷やされていたスイカは水滴を滴らせて輝いている。
夏だな。…スイカを配膳するこいつもなかなか様になっている。
小皿を渡され、俺はそれを受け取った。

「スイカどうぞー」
「う、うむ…」
「で、なんだっけ。ギロロが私のことを好きだって話だっけ?」
「ああ、そうだな…!??!?」

なぬぅ!?やはり気付いていたではないか!!
さっきのあからさまな告白の時間をぶった切った当人だ、気付いていても可笑しくはない、だからといって!なんなのだその台詞は!態度は!!
茶化しおって、遊ばれているのは俺なのか!?俺かもしれない!!
こちとらド真面目に告白をしようとしていたんだが!?俺の立つ瀬が…沽券が…面子が…自尊心が…色々なものをぼろぼろにしおって!!

俺の信号に気付かないわけじゃないのだこいつは。
ただ知らないフリや、無視をしていたというわけか。

「ねぇね、私のこと、好き?」
「う、うぐ…ううう」
「好きかって聞いてんだよ。うぐうじゃわかんないよ★」
「うげぼっ!?」

にこりと笑うとこいつはあろうことか持っていたスイカを俺の口にねじ込んだ。
乱暴な…本性出してきおったな…。

…そんなに俺の口足らずは腹立たしいのか。
…そりゃそうだ。
俺はいつもこいつの勘の悪さを言ってきたが、それは逆を言えば俺の思い切りの無さに言い訳していただけ。
もう、臆病はやめたい。

好きだ。
好きなんだ!

「うぼあ!うぼあああ!」
「なんだよわかんないよスイカ咥えたままじゃ!もっと食べなよスイカ!いっぱい食べてお腹下しちゃえ!アハハ!」

調子に乗りおって、見ておれ、今の俺はかつての俺ではない。
スイカを飲み込んだらそこから俺の不敗神話が始まるのだ。
成長し続けて、そのうちお前が随時赤面して二の句も告げなくなるような良い男になってやる。
見とけ。覚悟しておけ。すぐだからな。

心を決めると俺はしゃくしゃくとスイカを咀嚼して、ごくんと飲み込んだ。

「わー!?種まで食べてる!腹からスイカの芽が出てきちゃうぞ!」
「ヲイ!気をつけ!目を食いしばれ!姿勢を良くして耳を澄ませ!」
「うわっ…な、なに急に大声出して…」

「俺は、お前が好きだ!!!」

言い切った数秒後、鳩が豆鉄砲をくらったかのようなお前の顔は、そのうち真っ赤になって情けない面になった。
目は潤み、唇は震え、眉尻を下げて、心の底から恥ずかしいという顔をしているな。
結構、その顔こそ俺が見たかったものだ。
お前にいつか告白して、今までに無く俺に意識するお前が見たかったのだ。
気持ちが良いものだな。
優越感も嗜虐心も、ないことないが、今までとは違う。
お前が好きだという気持ちだけが最前面に出て、快い勝利に呵呵大笑としているようじゃないか。


「聞こえなかったか?俺はお前がす」
「聞こえたよ!いいよもう言わなくて」
「好きだ!」
「言わなくていいってば!なに、もう…」

頭を抱えて蹲るほど恥ずかしいか。そんなお前も可愛らしい。
なあ、教えてくれ。他にどんな顔が出来る?
どこまで俺を夢中にさせるのか?

「卑怯だよ…好きって言えるのは私だけでいいのに」
「そうはいかない。馬鹿にしてるだろう」
「してな…してたかも。でももう馬鹿にしてないよ」
「ふん。当然だ」
「おかしい…ギロロが格好良いなんて、これはあれだ、夢だ…」
「なんだと?もう一度でも言ってみろ、こちらももう一回言うぞ」
「う…今日のところはもう、勘弁してください。…思ったより、心臓にくるから、…うう」

お前は顔を背け、照れて頭を抱えている。

にやり。
俺の今の顔はそんな言葉が似合うだろう。
初めて手に取った恋の感触に、俺は喜びを隠しきれない。

そうだな、今日はこれくらいにしといてやろう。
俺の信号を無視してきた罪は重い。
同時に、今まで尻込みしてきた自身への罪も相当だ。

ゆえに!
これからはヘタレな自己を克服し、挽回しつづけていく。
立ち止まらないぞ。足踏みもしないとも。

これからはお前の気持ちを奪い続けていく。
せいぜい覚悟しておくことだ。

ギロギロギロ!





END.
 

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