短編
□ヤブレター
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クルルの顔を押しのけて、私は逃げようともがく。
それをいらつきながら、しかし楽しげに彼は笑ってまた掴んで引き戻す。
手に持ったそれを取られまいと伸ばして、どうにかしてこの状況を打開する方法を考えていた。
「いいかげんそれ見せな…!」
「いーやだぁぁああ!」
すでに手の中の紙きれはくしゃくしゃになっている。
中身は鉛筆で書いたもので揉んでるうちに擦れてしまっているし、それ以前に下書きだから、読めたものじゃない。
これは現在私の大変恥ずかしい物的証拠そのものだ。
だからどうしてもクルルには渡したくない。
「いつまでも遊んでられないぜぇ?」
「遊んでない!もう本当にやめてよ!」
「嫌よ嫌よも?」
「嫌に決まってんでしょお!もーやあああ!」
クルルのことがなんとなく好きでラブレターでも書いてみようとか思ったのがそもそもの間違いか。
下書きまで書いたはいいが妙に恥ずかしくなってしまって、お蔵入りにしようとしていた。
この気持ちもなんだったら墓場までもっていってしまおうと思ってた。
だってさ、私とクルルはなにもかも違うじゃん。
だから両想いなんかなれるわけないと思ってたし、両想いになったらなったで何すればいいのか想像つかなくて。
私は後ろ向きに考えて、恋を諦めようとした。
のに!
捨てそこなった下書きの紙が、鞄から物を取り出す際にぽろりと一緒に落ちてしまった。
それに私が気付いて慌てて拾って隠したところを、クルルに見られたからこのありさまだ。
よほど気になるのかクルルは体に似合わない取っ組み合いを私にしかけながら、下書きの紙を奪おうとしている。
クルルがここまで見たがる理由はなんだろう。
もう何分もこうしているように思うし、常のクルルだったらとっくに萎えて興味も失っているだろう。
しつこい。本当にしつこい。
見せる気なんてないって何度も言ってるのに…!
「諦めろよ…!」
「やだってば…!」
クルルと私が下書きを掴み合った瞬間だった。
ビリィッ
散々もみくちゃにされた下書きの紙はまっぷたつに破れた。
クルルと私は分かたれた紙を見て間が開いた。
ぷつーん、と私の脳の奥で心肺停止のあの音が流れる。
そしてその後私は半狂乱になって、なにをしているのか分からず行動に出た。
「う、うわあああああああああああ!!!!!!!」
クルルの手に残っていた紙をぶんどり、自分で持っていた分も含めてびりびりと引き裂いた。
こんなもの、私の幼い恋なんか、ばらばらに散ってしまえばいい。
もう後生大事に独り占めなんかするもんか、今ここで葬ってくれる!
もうなんだか自分がよくわからなくて、泣きながら笑って変なテンションになっている。
破けるだけ破いてすっきりした私を、クルルは茫然と見ていた。