短編

□ヤブレター
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「…何してんだ」



クルルの問いに私は答えることができない。

ふうふうと息を整えて、涙のこぼれそうな目で睨みつけるしかできない。

ぽりぽりとクルルは項を掻くと、深いため息を吐いた。



「フツーここまでやるかよ…」



言うとクルルは散らばった紙片を集め、器用に並べ始めた。

元の紙の形に戻そうとしている。

なんでそこまで中身が見たいんだ。

手をちょっとがさがさするだけで、あっけなくまたばらばらになるだろうに、私はクルルの作業を見守った。

私の気持ちを修復してくれる動作に見えて、クルルの優しさを感じてしまったからかもしれない。



「ク…ククク…クーックックック」

「…なに」

「やっぱ俺だったか。そうじゃねぇかと思ってたぜぇ〜。なのに頑なに見せようとしやがらねぇから」



手紙の内容で、私の好きな人がクルルだと分かって、彼は満足そうにいやらしく笑っている。

恥ずかしさで顔から火が出そうになる。

いますぐこの世から消えてしまいたい。



「なぁ、なんで素直に見せてくれなかったんだぃ」



唯一の疑問だとでもいうように、クルルは小首を傾げる。

知られてしまったあとはもう開き直るだけだ。

私はぶっきらぼうに答えた。



「…ぜったい叶わないと思った」

「は?」

「だから、クルルは私なんか目もくれないと思ってた」

「…ククッ…クーックックック!俺様が!?お前に!?ありえねえな!」



ありえない。

その言葉だけで私は殺されたみたいにショックを受ける。

だがクルルは続けた。



「俺様がお前に目もくれないとかありえねぇんだヨ…俺はたぶんお前よりも先に好きだったんだぜ?」



あ、そっちの意味か。

しかもクルルは、私が好きだと自覚する前から、私のことを。

え、ていうか。



「両想い?」

「そういうこったな」



にやりと不敵に笑ったクルルが恰好良くて、私は目を奪われた。


クルルの考えは少しもわからないし、彼の行動も動機も知れたものではない。

私ではできないことをやってしまうし、だから遠く感じていた。


手紙は破いてしまったけど、言わずとも伝えられる媒体であることには違いない。


クルルが好きだと言ってくれるなら、空いていた距離も感じなくなる。

好きでよかったと、素直に思えた。










END.
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