Short story
□ハロウィン
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−10月31日−
「えっちゃん!早く!!遅れちゃう!!」
「…ジローがなかなか起きないからデショ」
リョーマの腕を引っ張り走るジロー。
そんな2人の前には立派な豪邸が聳えていた。
「おっじゃましまーすッ!!」
家に入れば使用人達が人の良さそうな笑みで迎えてくれた。
案内されて辿り着いた部屋へ足を踏み入れれば、まずその飾り付けに目を奪われた。
ハロウィンらしく黒とオレンジを中心とし、海の向こうから取り寄せただろう日本にはない独特な飾り。そして、至る所でジャックランタンが笑っている。
中央にあるアンティークな長机にはキャンドルや金銀の皿が並べてあった。
「スッゲェー!!」
「本格的だね」
感嘆な声を上げて辺りを見渡すジローを横目にリョーマは恋人の姿を探す。
「お、やっと来よった。リョーマ、ジロー、こっち来や!」
ヒョコっと隣のドアから顔だけ出した忍足に手招き付きで呼ばれ、2人は手を繋いだままそれに従った。
「コレはリョーマ、コッチはジロー」
差し出された(と言うか押し付けられた)紙袋を手にすると2人はバリッと離され別々の個室に追いやられた。
「衣装判ってもうたら面白ないやろ? 着るもんはソレ以外用意してへんから何が何でも着るんやで?」
ニヤっと口角を上げる忍足に嫌な予感がして堪らない…。
リョーマは渋々ドアを閉めた。
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気が優れないまま、姿見を前にリョーマは早速紙袋をひっくり返してみる。
−バサバサ−
「Σ−−ッ?!!!」
すぐに目に入った2つの黒い三角に、蛇の様な黒い長いモノ。
黒猫をイメージしたのだろう。
まぁそこまでは良いとして……
「なんなのコレ?!」
肩丸出しで背中が大きくカットされている服はどう見ても女物。首の後ろで蝶結びにされているのがその証拠だ。
銀色に縁取られたベルトが通っているズボンも驚く程短い。
「スカートじゃなくてよかったケド…」
前日に頑として履かないと忍足に言っておいたかいがあったものだ。
黒と紫のストライプのソックスに黒光りするエナメル素材の靴にリョーマは「あの変態め…」と悪態をつきながらも、自分の服を脱ぎ去った。
なんとか着替え終わり、改めてその服を見てみる。
恥ずかしいってもんじゃない。
こんな姿を人前に晒すなんて……
「冗談じゃない…」
「えっちゃ〜ん? 着替え終わったぁ?」
ガチャっと回されたドアノブの音に、リョーマの肩がビクッと震えた。
いくらジローだからって見せられたものではない。
「待ってジロー!入って来ちゃダメ!!」
−ガチャッ−
「……え?」
リョーマの言葉と同時に開いたドアからジローの姿が現れた。
悪魔のイメージなのだろうか、背中に黒い翼が生えて三角の尖った尻尾が足の間に揺れている。所々裂けている服は斬新なデザインで良いと思う。
だが、それよりリョーマには男物と言うだけでその服が羨ましかった。
勿論、リョーマからジローの姿が見えたと言う事はジローからもリョーマの姿が見えていると言う訳で…
「えっちゃん、カワE〜vV」
その姿には似合わない無邪気な笑みを零し、ジローがリョーマの元へ駆け寄った。
「すっごく似合ってるよ!」
ジローは褒めているつもりらしいが、全くもって嬉しくはない。
「こんなの……見せられない」
顔を真っ赤にさせ俯くリョーマに、ジローも眉を下げた。
「ゴメン…俺のせいだよね。パーティーやりたいなんて言ったから…そしたらえっちゃん着なくて済んだし…」
でもホントにカワEーよ?と捨て犬の様に見てくるジローに、リョーマの心が揺れ動く。
「ウウン…ジローのせいじゃない。あのエロメガネのせいだよ」
ポンポンと頭を撫でて軽く微笑み掛ければ、ジローに笑顔が戻る。
「安心して!今日一日おっしーから守ってあげる!!」
「ン…アリガト」
再び握られた手をリョーマも優しく握り返した。