Short story

□あなたとふたりで
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浅い睡眠から意識が浮上し、ふと目を開ければ、真上にあった太陽は随分と傾いていた。

後数時間で今日も終わってしまう。


散らかしたままのゲームに目をやり、次に自分の横で丸くなっている愛猫を撫でる。

「まさか今日がこんなにつまんない日になるなんて思わなかった…」

ポツリと呟いた言葉に、余計に儚む。


リョーマはベッドから身を起こし、机の隅に置かれた長方形の小箱を手に取ってまたベッドへ身を投げた。

軽く上下に振れば、中でカタカタと音がした。


今頃、何してるんだろ…

自分の誕生日のくせに、ペコペコ頭下げてたりして。

スーツ姿で、グラス片手に?
ぃゃ、花束か?

全く…住む世界が違い過ぎるって…


リョーマは小箱を両手で包み込み胸の上に置き、天井へ向けていた目をまた閉じた。


「Happy Birthday…Keigo」


スッと目尻から水滴が流れ落ちたが流れ落ちたのはその一滴だけで、それは跡も残さずに消えた。




〜♪〜♪〜♪

「ーーッッ!!」

シンとしていた部屋で急に流れだしたメロディーに、リョーマは跳ね上がるように上体を起こした。


あのヒトの固定着信音。

余りの驚きで、反射的に出てしまった。


『ハァ…ハァ、リョーマ…』

電話を通して吹き掛けられそうな荒い呼吸がリョーマの耳を擽った。

「……ケーゴ?」

何故そこまで激しい呼吸を繰り返しているのだろうか。

そんな疑問が浮かび口を開こうとしたが、それより先に跡部が声を発した。


『リョーマ、外に出て来い…ぃゃ、出て来てくれ』

普段聞いた事のない跡部の懇願と言ってもいい切な気な声に、鼓動が変に脈打った。


でも何故外? …まさかッ!!


リョーマは勢いよく部屋の窓へ振り返りそこから下を見下ろした。
すると、やはりそこには携帯を耳に当て、こちらを見上げている男の姿があった。
その姿を確認してすぐに、リョーマは自室を飛び出し階段を駆け降りた。


脈拍がおかしいぐらい早い。軽く息切れもする。


リョーマは震える手で玄関を開けた。





「……よう」

「…こんなトコで何してんの…」

一言目がそんなのもどうかと思うが、リョーマは素直に口に出した。

だって本当なら、アンタの姿はこんな所にあるはずがない。


未だに跡部が目の前に立っているのが信じられないといった様子のリョーマは、跡部の側へと歩み寄った。
そして、何かが腕に触れたと思った瞬間には体中を温かいものが包み込んでいた。


「…ケーゴ…パーティー、どうしたの?」

「ンなもんどうでもいい…」

首元に押し付けられた頭が揺れる度に、サラサラの髪が擽る。


「どうしても…今日、お前に会いたかった…」

ギュッと抱きしめられたのは身体だけではなく、同時に胸も締め付けられた。
リョーマは跡部の着ているスーツが皺になるのも気にせず、爪先立ちをしてその広い背中へ腕を回した。





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