Short story

□過去拍手御礼文
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梅雨


天から降り注ぐ雫…
たった一粒では判らない音も、これだけ降っていれば凄いものだ。

幼い頃、雨が降るのは雲の上にいる神様が泣いているからだと思っていた。
今はそんな可愛らしい事を言える程無知ではないが、その考えからすればこの時期の神様は相当泣き虫だ。

何がそんなに悲しいのだろうかと、悲しみのせいで降る訳でもないのにそう思ってしまう。
それ程この季節の変わり目は雨が多い。


授業なんてそっち退けで、何時まで経っても変わらない外の風景を眺めていた。
普段から教師の話なんて聞いていないが、雨の日になると一段とその声は聞こえ辛くなる。

授業とかそんな事より、今のリョーマの晴れない心中の原因はこの雨のせいでテニスが出来ないと言うコト。
リョーマ自身、夢中になってしまえばそんなモノは気にもならないのだが、決して良い状態で出来る訳ではない。


憂鬱な溜息を吐き出しながら外から視線を離し机上に突っ伏すと、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた。
それに答えるのも億劫で、リョーマはそのままゆっくりと目を閉じた。



結局今日一日雨は降り続くらしく、何の為に学校へ来たのか判らないぐらい内容が浅い一日が終わった。

のろのろと重い足取りで廊下を進んでいると、自分の存在を主張する様に携帯電話がメール受信を知らせる。
画面に表示されている人物の名前を見て、リョーマはメールを開いた。


『早く出て来い』


「ぇ、コレだけ?!」

本当に用件だけの文、しかもその用件が理解出来ない程の短文にリョーマは首を傾げた。
取り敢えず考えてみても判らないから、この俺様な人物の言い付けを守ろうと、少し軽くなった足で階段を駆け降りた。



靴箱へ着き、肩からずり落ちるバックを掛け直して辺りを見渡す。
すると、他校の制服を着たスラッとした後ろ姿が目に止まった。


「ケーゴ、いきなり何?」

その後ろ姿に声を掛ければ、少し不機嫌そうな顔をして振り向かれた。

「…何?」

「お前出て来んの遅ぇよ。何してやがった」

やっぱ機嫌悪かったかとリョーマは心中で呟き、拗ねている跡部を見て呆れた様に肩を下ろした。


「別に何もしてなかったよ。だって急ぐコトもなかったし…」

「お前、本当雨の日はやる気ないな…」

少しは機嫌が和らいだのか苦笑を浮かべる跡部にリョーマは少なからず、ほっとする。
この男の機嫌を損ねると何かと厄介だからだ。


「で?こんな雨の中、こんなトコまでどうしたの?」

靴を履き変えながら跡部を見上げる。

「お前を迎えに来ただけだ」

相変わらずな態度で言う跡部に、リョーマは顔を顰る。

「またあの長い黒い車で?」

「ぁ?長い黒い? 歩きで帰んだよ」

「歩きッ?!!」

まさかその言葉がこの人の口から出るとは思わず、リョーマは驚いて普段よりトーンの高い声が出た。

「アンタが雨の中歩きなんて…イイの?制服濡れるよ?」

さっさと傘をさしリョーマを自分の方へと引き寄せる跡部に、リョーマは遠慮がちにその中へと入る。

「んなの気にしねぇよ。たまには良いだろ」

口端を上げて悪戯そうに笑む跡部に連れられ、雨の中に出る。
途端に雨粒が傘を叩き、周りの音を遮断した。


「なんかさ…この世界に俺とアンタしかいなくなったみたいだね…」

今聞こえるのは激しい水音と、互いの声だけ。


「な?たまには良いだろ」

「ウン。たまには…ね」


ゆっくりと2人は歩調を合わせ歩き出す。


わざわざ雨の中アンタが迎えに来てくれるとか、肩が濡れるのに俺が濡れない様に傘を傾けてくれるトコとか…

この時期だからこそ俺の為にしてくれるコト。

テニスが出来ないのは結構痛いケド、何時もと違うアンタが見れたから、少しはこの長い雨期も好きになれそうだ。



そして梅雨が明ければ…

暑い夏がやってくる。





End...........


久しぶり過ぎて口調とか忘れました。
微妙な甘さですし…

因みに景吾はこの後、越前家に行き夕食をご馳走になって長い黒い車で帰りました。
ちゃっかりと、リョマも一緒に…


ご覧になって下さり有難うございました。


08.6.6

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