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□横恋慕
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「「あ…」」
氷帝学園の最寄り駅。
休日の朝、偶然にも出会った二人は相手の顔を認識すると同時に間抜けな声を上げた。
「越前やないか、おはよーさん♪…なんや、また跡部か?」
「…アンタに関係ないじゃん」
会えたことを純粋に喜ぶ忍足に比べ、話しかけられたリョーマといえば、仏教面のままだ。
そんな相手の様子に忍足は苦笑いを浮かべる。
「相変わらずつれないやっちゃな〜。ま、そんなとこも可愛えぇけど」
しかし、すぐに持ち前のポジティブ思考で持ち直した忍足。
彼は、目の前にいるリョーマを愛おしげに見据えていた。
「…どいてよ」
それに気付かないフリをして、どこか気まずそうに視線をそらしたリョーマが呟いた。
しかし、その願いはすぐに拒否される。
■横恋慕
「あかん」
きっぱりと言い切った忍足。
「!なんでっ!?」
「跡部んとこになんぞやりとーないんや」
忍足の口からもれた本音に、リョーマが思わず顔を上げれば、今までの飄々とした態度ではない真剣な眼差しを向忍足の目とあった。
リョーマが一瞬怯む。
実を言うと、リョーマは忍足のこの目が苦手だった。
何故なら、そらすことを許さない力強いその瞳に、全てを見透かされるような気にさせられ怖かったから…。
「…だからアンタには関係ないじゃん。どいてってば!」
「関係なくなんか、ない。…わかっとるんやろ…?なぁ…“リョーマ”?」
「…っ」
苛立ち気味に叫んだリョーマに、忍足は静かに告げる。
そして、わざとらしく普段は呼ばない名前で問い掛けてきた忍足に、リョーマは無意識に唇を噛み締めた。
そんな、何とも言えない雰囲気を垂れ流すその場所に、突如第三者の声が響いてきた。
「おい忍足、俺様のリョーマにちゃちゃ入れしてんじゃねーよ」
「……跡部か」
「景吾…」
氷帝テニス部の部長であり、リョーマの恋人でもある彼…跡部景吾は、忍足を睨みつけつつリョーマの肩を抱き寄せる。
まるで、忍足に自分たちの仲を見せ付けるかのようなそれに、忍足は苦笑いを零した。
「…大丈夫か?」
「…ウン」
「……はぁ〜、跡部が来たんなら今日はもう無理やな。ほな、さいなら…」
跡部の登場により、なんとも呆気なく退散していった忍足。
彼は最後にリョーマへ向けて意味深な笑みを向けて去って行ったのだが、二人はそれを見逃さなかった。
「…チッ、忍足のやつ」
「ゴメン、」
苛立ち気味に吐き捨てた跡部に、途端にリョーマがしおらしくなる。
…リョーマは、どこかしら二人に対して罪悪感を抱いていた。
忍足の気持ちは、一人の人間として純粋に嬉しいものがある。
だが、自分は景吾を心底愛してしまっているのだ。
…景吾以外を、考えることができない。
いくら気持ちを伝えられたとしても、その想いに答えることは出来ないだろう。
それは、相手も充分わかっているだろうに、未だああやって自分に関わってこようとする姿を見ては心から邪険にすることができないでいたリョーマ。
これは、景吾を裏切っていることになるのだろうか…?
そんな思いがリョーマの頭の中にぐるぐると回る。
「アーン?何謝ってんだ?オマエは何も悪くねぇーだろーが」
「そう、だけど…」
「んな気にすんじゃねーよ。アイツのことは無視してりゃーいい」
「………うん」
どこか気まずいまま歩き出した二人。
そもそも、忍足の気持ちは二人ともが理解していたことだった。
知っている上で、跡部は忍足を牽制してリョーマに手出しさせないよう配慮し、リョーマはなるべく意識しないよう冷たくあたっていたのだ。
唯一の誤算は、忍足の想いの深さだろうか…二人が付き合っていることを理解しつつも諦める様子を見せない忍足に二人はどうしたものかと頭を悩ませていた。
両想いの二人を巻き込んだこの三角関係…いつ、終わりを迎えるのか……?
((オマエは、俺だけ見てればいいんだよ))
((…俺が好きなのは、景吾だけ…))
((この恋が不毛なんはわかりきっとることや))
((でも……それでも諦めきれんのや…リョーマ))
END
→御礼文