Short story
□節分
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彼の有名な氷帝学園の校舎から出て来る黒髪の他校生。
大方の人物はもはやその姿を見慣れているのか、咎める者はいない。
その他校生であるリョーマがここにいるのは勿論の事ながら、恋人である跡部景吾絡みである。
生徒会長でもある跡部に時間が掛かると言う理由で車で待ってろと言われ、渋々黒光りする車に向かっている途中。
校舎内で待っていると言ったが、何処で何時、誰に何をされるか判らねぇだろと頑として聞き入れて貰えず、結局リョーマが折れたのだった。
「心配性と言うか、独占欲が強いと言うか…」
ふぅと軽く溜息を吐き、運転手によって開かれたドアを潜ろうとした。
「なんや、姫さんやないか?」
「姫?…あ、越前じゃん!また跡部の呼び出しか?」
毎度ご苦労なこって〜とケラケラ笑う声が聞こえ振り向けば、忍足と向日が近寄って来ていた。
「ドモ…2人共もう帰りっスか?」
リョーマは車内に入り掛けた足を戻し、運転手にまだ乗らない事を告げ車内に戻って貰った。
「まぁな!とは言っても帰るには早いから遊びに行くんだけどよ」
な、侑士!と笑む向日に忍足は軽く頷いた。
「もうすぐジロー達も…」
「あッ!!えっちゃ〜ん!!」
「……来たっスね」
ブンブンと手を振り駆け出すジロー。その横には耳を押さえる宍戸とそれを見て笑む鳳の姿があった。
「いきなり叫ぶな!」
「さっきまで眠そうだった人とは思えませんね」
鳳の言葉に、今にもリョーマに抱き付こうとしていたジローはくるりと振り向いた。
「だってえっちゃんが来てるんだよ!寝てなんていられないC!」
言い終わるか終わらないかの所でリョーマに抱き付くジローは人懐こい犬のよう。
「そーいえば、えっちゃん。今日何の日か知ってる?」
突然問われリョーマはジローの顔を怪訝そうに見上げた。
「誰かの誕生日っスか?」
小首を傾げそう言えば、ジローは笑みを濃くした。
「違うC〜♪今日は節分だよ〜」
「…セツブン」
答えを反芻するリョーマに今度は忍足が首を傾げる。
「姫さん節分知らへんの?」
「詳しくは知らないっスけど…豆まく日っスよね?」
途端にえっちゃん大正〜解っ!!とジローが騒ぎ始める。
しかし、正解だと言われても、いまいち日本の風習・文化が判らないリョーマにとって何の為に豆を撒くのか判らない。
「豆撒きっちゅーのはな、鬼が嫌いな豆をぶつけて厄を祓うって奴やねん」
人差し指を立てる忍足にリョーマがフーンと薄いリアクションを返す。
「後ヒイラギに鰯の頭挿して玄関に飾ったりな」
「へぇ、宍戸さん物知りですね!」
忍足に続いて述べる宍戸を鳳が大袈裟に褒めるが、その横ではリョーマが嫌そうに顔を顰めた。
「うわっ…クサソ…」
日本人はホントに変わった事をする。
なぜイワシの頭じゃなければならなかったのか…
「それに恵方巻っちゅー奴は旨いで。あれは食べなあかんな」
「エホーマキ?」
「跡部に言えば喰わせてくれんだろ。つか、もう行かねぇ?」
いい加減痺れを切らせた向日が焦れて地団駄踏みだした。
「…そやな。まだ姫さんに教えてやりたいけど、そろそろ独占欲塊の王様が来るやろからな」
嫉妬心向けられたら大変やと忍足は苦笑を浮かべた。
忍足には悪いが、とばっちりを受けるのは大抵忍足だ。
「そだ、えっちゃんに良いモノあげる!」
肩からバッグを下ろし、何やらガサゴソと探りだしたジロー。あった!と声が上がればその手には色とりどりの包み紙が入った袋が握られていた。
「何?」
「貰い物だけどたくさん貰っちゃったからさ。えっちゃんにもあげるね!」
ハイッと喜々として渡すジローにリョーマも頬を緩めた。