Short story
□あなたとふたりで
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今日は1年に1度のあなたの日。
出会えたコトに感謝して、また一つ前に進んだあなたとこの日を一緒に祝いたい。
なのに……
どうしてアンタはここにいないの?
その理由を知ったのは数日前のこと。
『すまねぇ…』
電話口から聞こえた言葉に思考が鈍った。
急すぎて、何に対して謝られてるのかさえ判らない。
「…な、んで?」
気が動転し過ぎて、しどろもどろになってしまう。
『何時ものくだらねぇパーティーなら蹴ってやるんだが、どうやら得意先が来るらしくてな…どうしても断れねぇんだよ』
同時に溜め息を吐き出す跡部の声が耳に低く響く。
年に一度しかない日。
恋人であるならその日を祝ってあげたい。
なのに……
得意先?だから何?
俺よりそっちが大切なんだ?
『埋め合わせは…「別に…謝んなくてもいいよ。調度その日、部長の誕生日パーティーあるし…」
違う…こんなコト言いたいんじゃない。
財閥の跡取りとしてやらなきゃいけないコトがあるってことぐらい。
判ってるつもりだ…
でも、動き出した口は止まらない。
「こっちのコトは気にしないでお得意先の相手して来て」
嫌な言葉。
サイテー、サイアク。
『リョーマ…』
「俺もう眠い。…じゃあね」
一方的に終わらせ、携帯を閉じた。
それをベッドの上に放り投げ、その横に倒れた。
すると、すぐにあの人からの着信を知らせるメロディーが流れ始めた。
「…眠いって言ったじゃん…」
リョーマは小さく呟き、その着信音が止まるまで、目を閉じ耳を傾けた。
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あれから連絡を取り合わないまま(無視しただけだけど)10月4日を迎えていた。
『跡部なんて放っておいておいでよ』
「…ホント、ケーゴのこと嫌いっスよね。不二センパイ」
わざわざ今日、部長の誕生日パーティーをやろうと言い出したのは他でもないこの人。
どうしても今日と言う日に、二人きりにさせたくなかったらしい。
『しょうがない、跡部も一緒で良いからさ』
「…いや、そのメンバーにケーゴが入ったら変っスよ」
いかにも跡部がいる設定で話を進める。
声音は普段と変わらないが、リョーマの表情は酷く冷めていた。
部長の誕生日パーティーに行くと跡部には告げたが、やはり恋人の誕生日の日に別の人の誕生日を祝う気にはなれなかった。
しかし、尚も不二は諦めない。
『どうしても来ないの?お父さん泣いちゃうよ?』
……お父さん?
『…ぉぃ不二、誰が父親だ。誰が』
『何言ってんの、手塚に決まってるじゃない。あれだけ過保護なんだから親に見えて当然』
電話の向こうで二人の言い合っている声が聞こえる。
『不二、代わってくれ』
『ちょっと!まだ話して…』
−ガチャッ、カチャ−
『越前か?』
「…部長?」
不二から、次の相手は手塚に代わった。
チョット…通話料かかりすぎ…。
まぁコッチは平気だケド…
『越前、不二の言う事は気にするな』
「…え」
『お前達はお前達の時間を過ごせ。こっちの事は気にしなくていい』
手塚の落ち着いた声の背後では派手に騒ぐ騒音がする。どうやら青学レギュラー全員が集まっているらしい。
『お前達の邪魔までして来いとは言わない。それに今日は俺じゃなく、…跡部の誕生日だからな』
優しさを含んだその物の言いと同じくらい、手塚は酷く優しい笑みを浮かべているだろう。
「ウン…アリガト、部長…」
リョーマは照れ臭そうに苦笑を浮かべながら電話を握る手に少し力を篭めた。
始めは跡部と付き合う事を反対していた手塚だったが、今では自分達の事を想ってくれているのがひしひしと伝わってくる。
『じゃあ切るぞ。』
「…ん」
『…手塚!!まだ切っ』
−ブツッ…ツーツー
最後に聞こえた不二の声に、リョーマは切れた電話口を見詰めた。
代わる前に切れてよかった…
きっと言い合いになっているだろう二人を思い浮かべて、リョーマは小さく吹き出し通話を切った。
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