Short story

□SAKURA〜桜〜
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桜の舞い散る姿は綺麗だけれど儚くて…

それを一人で見るには淋しいから、だから隣に居て?





あの肌を刺す様な冷気も何時の間にか暖かな風へと変わり、新しい季節が来た事を優しく告げていた。

不意に前を過ぎて行く淡いピンク色の花弁を目で追う。地面にゆっくりと舞い散る姿はまるで羽の様…

決して鈍い訳では無いが、それを見るとまた季節が巡って春が来たんだと改めて認識させられる。


日本に来てからこの桜を見るのは何度目になるのだろう…
そして何度見る事が出来るのだろう…‥


そんな事を考えながら頭上を見上げれば、まだ満開とはいかない程の桜が咲いていた。


鴬の囀りなどから風流と言う物を感じるらしいが、自分の性格上余りピンと来ない。

ただ桜は枯れもしていない内に、綺麗なまま散っていく儚いモノだと…



そんなシリアスな雰囲気に浸っていたリョーマは一本の桜の木の陰にいた人物に目が止まった。


腕を組んで凭れている姿はそれだけで絵になっている。
名前は跡部景吾。
氷帝学園テニス部員200人の頂点に立つ男。


サラサラと靡くグレーの髪にピンクの花弁が撫でる様に滑り落ちて行くのを見て、俺サマだけどこうしてれば、結構キレイなヒトだよな…なんて思ってしまう。



「何だ?俺に見惚れてんのか?」


閉じていた青い瞳がいつの間にか開いていて意地悪そうに笑みを含ませている。

「だ、誰がッ///」

図星までとはいかないが、それらしい事を考えていた事に酷く羞恥心を煽られ噛み付く様に言い返した。

「っつか、こんなトコで何やってんスか?」

呆れた様に溜息を吐き頭を掻く。


「あん?俺様が桜の木の下で春を感じちゃ悪ぃか?」

「…そうじゃなくて…何でわざわざ氷帝から青学まで来てんだよって聞いてるんスよ‥」

いきなり出た俺様発言に心底参る。
春を感じちゃ悪いかなんて、このヒトじゃなきゃ言えない台詞だななんて思いながら…


「別に。ただ誰かさんが桜でも見て泣いてんじゃねぇかって思っただけだ」

厭らしく不適に笑うその表情に、不快な気分になる。

「別に俺は泣いてナイ」

「俺だってお前だとは言ってない」

全てを見透かし、先読みする台詞に苛立ちを覚える。

「アンタ、何が言いたいの?」

「さぁな?」

怪しげに眉を寄せてその顔を見上げるが、何を考えているか判らない。
ただ、自分にそれだけの観察力が無いだけなのかも知れないが。


「敢えて言うなら、桜は脆く儚いと言いに来た」

「誰に?」

「今、目の前で泣いてる奴に…」


何を言っているのか理解出来ないとリョーマは首を捻る。
実際自分の眼からは涙など出ていないし、泣きそうな顔もしていない。


「オカシイんじゃないの?誰も泣いてなんか…」


途中で言葉を遮られ、持っていたテニスバックが落ちると同時に、気付けば彼の腕の中にいた。





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