忍たま小説置き場
□涼風
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風が凄く涼しい。
自分が掘ったタコ壷に入って、膝とスコップを抱える様にして座って。ただ、空を眺めていた。
ちゃんと雲って流れてるんだなあとか、今聞こえた声は七松先輩のだろうとか。
さっき掘ったタコ壷に目印付けるの忘れちゃったとか。
あぁ、遠くで体育委員会が走り回ってる。さっきから凄く地面が揺れてる。滝夜叉丸はまた愛しい人の背中を追って頑張ってるんだろうな、とか。
凄く穏やかに時間が流れている。
私の愛しの人は、今この時間何をしているんだろう。同じ様に、涼風に触りながら、雲が別れたり出会ったりしているこの青空を見上げているのだろうか。
(会いたいな…)
上を向いて目を開けてると疲れてくるから目を閉じて、思わずうとうと風に任せて睡魔が来る。
(涼しい…)
ゆっくりと、意識を手放した。
「こんなとこで何やってんだか」
誰かが上から見下ろしている。
思いの他、快眠してしまったようで瞼が重い。
「綾部、迎えにきたよ」
「………久々知先輩」
見上げると、さっきまで青かった空が夕日がかって赤く染まっていた。とても綺麗な夕焼けと、優しく見下ろす、私の愛しの人の笑顔。
あれほど響いていた体育委員の足音も聞こえなくなっていた。あぁ、委員会はもう終わったのか…。滝夜叉丸はもう部屋に戻ってるのかな。
「綾部、手貸すから。出れる?」
こくりと頷いて、立ち上がる。
先輩が身を屈めて手を伸ばしてくる。ニコッと笑って、私はその手を掴んで両手で思いっきり自分の方へと引っ張った。
「は!?ちょっ、うおおああっ!」
私より大きな体が上から落ちてきて、二人でタコ壷の中で倒れ込む。
ガツンと、先輩の下敷きになった私の背中にスコップが当たって、正直痛い。
「っ綾部!お前なあ、…!」
多分、何するんだとか、文句を言おうとしたんだろうけど、言葉は途中で切れていきなり先輩の腕が私を引き寄せて抱き締めた。
「おいっ背中当たってたんじゃないか」
私の背後にあったスコップを見て、優しく背中を撫でられた。
あぁ、こういうところが先輩らしい。
「痛いだろ」
「………うん、痛い」
抱き締められて、先輩の胸元に体を埋めた状態のまま、顔を摺り寄せた。
「お前が引っ張るから。」
「………………」
2人きりになれたからいいじゃない、と言おうとしたけど、面倒だった。
まだ優しく背中を撫でてくれている手が好きだとか、そういう時折見せる先輩らしい気遣いが好きだとか、顔を摺り寄せただけでドキドキと早く動く心臓の音が丸聞こえな事とか。
(あぁ、落ち着く…。)
大好き大好き大好き。
私は滝夜叉丸の様に一生懸命追いかけるんじゃなくて、罠を張って捕まえる方が好きだなぁ。
会えたら、嬉しいんだもの。
*Cool breeze
---------------end*
7月最後の日は、風が涼しくて冷房機いらずでしたね^^/
家で窓全開にしてボーッとしてたら思い付いた短編久々綾でした!*゚
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