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□モデル事務所へ行こう。−1
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どちらかと言うと、自分は『美形』と言われる部類に所属している事は分かっていた。

『蛙の子は蛙』
とっくに40を超えたと言うのに、未だキラキラしい父母。
授業参観に来れば必ず兄姉に間違われる。
祖父母も祖父母で父母に間違われる。
そんな美形一家に生まれたからには、多少なりとも遺伝は受けるものだ。

告白なんかもそれなりにされた事があるけれど、それより友達と馬鹿やってる方が楽しかったし、もともとの性格も手伝って中身は平々凡々。
それでも身体を動かす事が好きで、特に球技は大好き。
どうやらなんでもそれなりに出来てしまうらしい俺は、部活を何個も掛け持ちして、助っ人宜しく張り切っていた。

ゆくゆくはひとつに絞って、それに専念しようと思っていた。
そして、それで一生食って行けたらいいと。

そう『思っていた。』

よくある話だ。
信号無視の車に突っ込まれて、右足の筋を損傷、そして左目を負傷してしまった。
長時間の激しい運動なんて痛めた筋では出来るはずも無く、傷を負った左目も、日に日に視力を失って行く。
それを補うために酷使された右目も、もの凄い勢いで視力を落とした。

曖昧ながらもたてていた人生設計を、一瞬にしてダメにされてしまった。

まさに、そんな時だった。

新宿駅を出てすぐ、事故にあってからモノクロだった視界が、唐突に色鮮やかに輝いた。
一言で言えば、ただのポスター。
けれど、一瞬のうちに自分の全てを奪い取った。
どこか不機嫌そうな、けれど、何かを欲するような眼差し。
指し伸ばされた手に、思わず縋りそうになる。
鳥籠の中の囚われ人。
そんな『彼』に、体中の細胞が沸き立つ。
零れた涙にも気づかず、俺はただ呆然と立ち尽くしていた。

そして、そんな俺に掛けられた声。

『ねぇ君、モデルやる気ない?』

それが、全ての始まりだった。
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