短篇

□雨と傘
1ページ/9ページ




『アタシは傘になりたいわ。』




将来の夢、そんなタイトル文句みたいにきみが云った。




「はぁ…」




雨空を受けてジメジメしていたぼくの思考に

もうひとつ晴れないモヤが覆い被さった。


雨を嬉々するように

きみの傘が喜びの歌を奏でる。




「あり?頬切れてるよ?」




痛くないの?

尋ねておいてきみの手が触れる。

チクリと微かに痛みが走った。




「生傷だらけね?」




ぼくの顎をぞんざいに掴んだきみが

確かめるように

遠慮なく角度を変えては

擦り傷に触れる。




「……触らないでもらえる?」




カサブタもあれば

そうじゃない傷もある。


それを遠慮なしに触れられればそれなりに痛い。

それに、




「だって、なんだか触りたくなるんだもの。」




きみに触れられると心臓が五月蝿くなる。


多分これは病気なんじゃないかなって思うんだ。




「……遊ばないでほしいなぁ…」




悪びれない笑顔のきみが

雨に咲く花みたいだ。


ギシリ、そんな音が聴こえてしまいそうで怖い。




「いいのよ。アタシは傘になりたいんだから。」




傘になることと

ぼくで遊ぶことに

なんの繋がりがあるのか、今日のきみは殊更(ことさら)判らない。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ