短篇

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岐路に立たされ

黒いひとが脅すようにささやく。


「右をごらん。安楽への路だ。」


静かな声で指差してワタシの手をとる。


「左をごらん。苦楽への路だ。」


後ろから抱きすくめるようなカタチで
ワタシの両の手を左右に広げる。


「どちらがお好みか?」


不思議なニュアンスで黒いひとが笑う。


「………。」


左右を見遣って、頭を後ろに倒し黒いひとを見上げた。

「考えてもムダだよ?」


赤い紅(べに)の隙間から白い歯がちろりと覗く。


「ココロに人は逆らえないのさ。」


舌嘗めずりする舌の先が二つに割れていて、蛇を彷彿とさせる。


「さぁ、どちらがお好みか?」


再び問いかけてワタシの額の上で割れた舌がチロチロと揺れる。


「いい、や…」


揺れる舌をしっかりと見つめてワタシは違うと首を振った。


「いや?」


やっぱり不思議なニュアンスで黒いひとが首を傾げる。


「いや、じゃない、けど、どちらも違うって、」


足りない言葉を繋ぎながらぐるぐると考える。

自分の言葉の先を。


「ココロが、違うと云う?」


ワタシより先に黒いひとが繋げた言葉に嗚呼、とココロが頷く。


「うん、そう。」
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